2026/02/10
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償却期間切れは法人化の好機?所得税の節税メリットと損益分岐点を解説

償却期間切れは法人化の好機?所得税の節税メリットと損益分岐点を解説

不動産投資において建物の減価償却期間が終了すると、経費計上できる金額が減り、帳簿上の利益が増加することで所得税が急増します。
この税負担の増加は手元の現金を圧迫するため、多くの投資家が対策を模索します。
その有効な選択肢の一つが「法人化」です。
この記事では、償却期間切れをきっかけに法人化を検討している方へ向けて、個人と法人の税率の違い、法人化による節税メリット、そして判断の目安となる損益分岐点について具体的に解説します。

1. 償却期間切れで所得税が急増?手残りが減る「デッドクロス」の仕組み

減価償却期間が終了すると、経費として計上できていた減価償却費がなくなり、帳簿上の利益が急増します。
その結果、所得税や住民税の負担が大幅に増加します。
一方で、金融機関へのローン返済は続いており、そのうち経費にならない元本部分の返済額は変わりません。
これにより「会計上は黒字で多額の税金を納める必要があるにもかかわらず、手元には現金が残らない」という資金繰りの悪化が生じます。
この状態はキャッシュフローを著しく悪化させ、最悪の場合、黒字倒産に至るリスクもはらんでいます。
手残りが減る「デッドクロス」

2. 法人化でなぜ節税できるのか?個人と法人で異なる税率の仕組みを比較

法人化による節税の根幹には、個人と法人で適用される税率構造の違いがあります。
個人の所得税は、所得が増えるほど税率も高くなる「超過累進課税」が採用されており、最大で45%に達します。
一方、法人税率は所得金額にかかわらず、比較的一定の税率が適用されます。
資本金1億円以下の中小法人の場合、所得800万円以下の部分には15%、800万円を超える部分には23.2%の税率が課されます。
そのため、個人の課税所得が高くなり、高い所得税率が適用されるようになると、法人を設立して法人税を支払う方が全体の税負担を抑えられる可能性があります。

3. 法人化で実現できる!不動産投資における5つの節税メリット

法人化は、単に税率が低くなるだけでなく、個人事業では活用できない多様な節税メリットをもたらします。
例えば、経営者自身や家族に支払う給与を経費にできることや、経費として認められる範囲が広がることなどが挙げられます。
また、事業で生じた赤字を個人より長い期間繰り越して将来の利益と相殺できたり、将来の退職金を経費として準備できたりと、長期的な資産形成の観点からも有利な点が多数存在します。
これらのメリットを組み合わせることで、より効果的な節税対策が可能になります。

3-1. 役員報酬を設定して給与所得控除を最大限に活用する

法人化すると、個人事業主の「事業所得」が法人の役員としての「給与所得」に変わります。
給与所得には、収入に応じて一定額を必要経費とみなして差し引ける「給与所得控除」が適用されます。
例えば、年収850万円の場合、195万円の給与所得控除が受けられます。
これは個人事業主にはない制度であり、役員報酬を設定することで課税対象となる所得を直接圧縮できるため、大きな節税効果が期待できます。
役員報酬の金額を適切に設定することで、個人の所得税と法人税のバランスを取りながら、手元に残る資金を最大化する計画を立てることが可能になります。

3-2. 家族を役員にして所得を分散し世帯全体の手残りを増やす

家族を法人の役員とし、業務内容に応じた適切な役員報酬を支払うことで、所得を分散できます。
個人の所得税は累進課税であるため、一人の所得が高額になると高い税率が適用されます。
しかし、所得を複数人に分けることで、それぞれに低い税率が適用され、世帯全体としての納税額を抑える効果があります。
例えば、1,200万円の所得を一人で得るよりも、夫婦で600万円ずつに分けた方が、それぞれに給与所得控除が適用されるうえ、低い所得税率が適用されるため、手元に残る金額は多くなります。
これにより、世帯単位でのキャッシュフローを改善できます。

3-3. 経費として認められる範囲が広がり節税効果が高まる

法人化により、個人事業主と比べて経費として認められる範囲が広がります。
例えば、経営者の生命保険料を法人が契約者となって支払うことで、その一部または全額を損金として算入できる場合があります。
また、法人名義で契約した住居を役員社宅として提供すれば、家賃の一部を経費計上できます。
出張手当(日当)も、旅費規程を整備することで非課税で支給でき、法人の経費としながら役員の可処分所得を増やすことが可能です。
これらの経費を適切に活用することで、課税対象となる所得を圧縮し、より高い節税効果を得られます。

3-4. 赤字(欠損金)を10年間繰り越して将来の黒字と相殺できる

事業年度において生じた赤字、すなわち欠損金は、翌年度以降に繰り越して将来の黒字と相殺できます。
この繰越控除の期間が、個人事業主の青色申告では3年間であるのに対し、法人では10年間(2018年4月1日以降に開始した事業年度から)と長く設定されています。
不動産投資では、大規模修繕などで一時的に大きな赤字が発生することもありますが、その赤字を長期間にわたって活用できるため、将来の法人税負担を平準化し、安定した経営基盤を築く上で有利に働きます。
この制度は、長期的な視点で事業計画を立てる際に大きなメリットとなります。

3-5. 将来の退職金を準備し、退職所得控除で税負担を大きく軽減する

法人は、役員に対して退職金を支払うことができ、その支払額は原則として法人の経費(損金)として計上できます。
役員が受け取る退職金は「退職所得」として扱われ、給与所得とは分離して課税されます。
退職所得には勤続年数に応じた「退職所得控除」という非常に大きな控除が適用されるため、他の所得に比べて税負担が大幅に軽減されます。
例えば、勤続20年で1,500万円の退職金を受け取った場合、退職所得控除は800万円となり、課税対象はその半分の350万円にまで圧縮されます。
これにより、将来の資産形成を税制上有利に進めることが可能です。

4. 法人化を検討すべき損益分岐点は?課税所得900万円が1つの目安

法人化を検討する際の損益分岐点として、一般的に「課税所得900万円」が目安とされます。
これは、個人の所得税率が課税所得900万円を超えると33%になるのに対し、中小法人の法人税率は所得800万円超の部分でも23.2%であるため、税率の逆転現象が起こるためです。
個人の課税所得から社会保険料などを考慮すると、給与収入が1,100万円程度、不動産所得を含めた事業所得が1,000万円前後から、法人化による税負担軽減のメリットが大きくなり始めます。
ただし、これはあくまで一般的な目安であり、最適なタイミングは個々の状況によって異なります。

4-1. 【所得別シミュレーション】個人事業主と法人で手取り額はいくら変わる?

課税所得が1,000万円の場合で比較してみましょう。
個人事業主の場合、所得税と住民税、事業税を合わせると税額は約300万円程度になります。
一方、法人を設立し、役員報酬を500万円に設定すると、法人には残り500万円の利益が残ります。
この場合、個人の給与所得に対する税金・社会保険料と、法人の利益に対する法人税などを合計した負担額が、個人事業主の税額を下回る可能性があります。
役員報酬の額を調整することで、法人と個人の税負担の合計額を最適化できますが、社会保険料の負担増も考慮に入れる必要があります。
正確な比較には、税理士などの専門家による詳細なシミュレーションが不可欠です。

4-2. 所得が900万円に満たなくても法人化を検討した方が良いケース

課税所得が900万円に達していなくても、法人化が有利になる場合があります。
現在は所得が低くても、将来的に物件を買い増すなどして所得が大幅に増加する見込みがある場合、早めに法人化しておくことで将来の税負担を抑えられます。
また、不動産投資以外にも事業を行っており、それらの損益を通算したい場合も法人化が有効です。
さらに、将来の相続を視野に入れている場合、個人で不動産を所有するより、法人の株式として相続する方が評価額を抑えやすく、相続税対策につながることもあります。消費税の課税事業者になるタイミングでの法人化も、免税期間を再度活用できる可能性があるため検討に値します。

5. 法人化の前に知っておきたいデメリットと注意すべきポイント

法人化は多くの節税メリットがある一方、設立や維持に伴うコスト、事務的な負担の増加といったデメリットも存在します。
メリットだけに目を向けて安易に法人化を進めると、かえって手元資金が減少する可能性もあります。
会社設立時の初期費用や、赤字でも発生する税金、社会保険への加入義務など、事前に把握しておくべき注意点を理解し、自身の事業規模や将来計画と照らし合わせて総合的に判断することが重要です。
これらのデメリットを理解した上で、メリットが上回るかどうかを慎重に見極める必要があります。

5-1. 会社設立に必要となる初期費用(定款認証・登録免許税など)

法人を設立する際には、様々な初期費用が発生します。
株式会社を設立する場合、公証役場で定款の認証を受けるための手数料が約5万円、法務局に設立登記を申請する際の登録免許税が最低でも15万円かかります。
合同会社の場合は定款認証が不要で、登録免許税も最低6万円からと、株式会社に比べて設立費用を抑えることが可能です。
これらに加え、司法書士などの専門家に手続きを依頼する場合は別途報酬が必要です。
電子定款を利用すれば定款に貼付する収入印紙代4万円が不要になるなど、費用を削減する方法もありますが、少なくとも数万円から20万円以上の初期コストがかかることは念頭に置く必要があります。

5-2. 赤字でも毎年発生する法人住民税の均等割(約7万円)

法人は、事業年度の所得が赤字であっても、納税義務が免除されるわけではありません。
法人住民税は、利益に応じて課税される「法人税割」と、資本金や従業員数に応じて定額で課税される「均等割」で構成されています。
このうち均等割は、法人が存在している限り、赤字かどうかに関わらず毎年支払わなければなりません。
税額は自治体によって異なりますが、資本金1,000万円以下、従業員50人以下の一般的な法人であれば、最低でも年間約7万円の負担が発生します。
これは法人を維持していくための固定コストとなるため、設立前に必ず認識しておくべき重要なポイントです。

5-3. 会計処理が複雑になり税理士報酬が増加する可能性

法人の会計処理や税務申告は、個人事業主の青色申告と比べて格段に複雑になります。
会計帳簿は複式簿記で厳格に作成する必要があり、決算時には貸借対照表や損益計算書に加え、勘定科目内訳明細書など多くの添付書類が求められます。
これらの書類を正確に作成し、法人税の申告を行うには高度な専門知識が必要です。
そのため、多くの場合は税理士に顧問を依頼することになり、その報酬が新たなコストとして発生します。
個人事業主時代は自分で確定申告をしていた場合でも、法人化を機に税理士費用が年間数十万円程度かかることを見込んでおく必要があります。

5-4. 社会保険への加入が義務化され保険料負担が増える

法人を設立すると、たとえ社長一人だけの会社であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が法律で義務付けられています。
役員報酬の額に応じて保険料が決定され、その保険料を会社と個人で半分ずつ負担(労使折半)します。
個人事業主時代に国民健康保険と国民年金に加入していた場合と比較して、トータルの保険料負担が増加するケースが少なくありません。
特に扶養家族がいる場合、国民健康保険では保険料に上限がありますが、社会保険にはそのような上限がないため、役員報酬の額によっては負担が大幅に増える可能性があります。
この社会保険料の負担増は、法人化のシミュレーションにおいて必ず考慮すべき重要な要素です。

6. 償却期間切れ以外にもある!法人化を検討すべき最適なタイミング

減価償却期間の終了によるデッドクロスは法人化を考える大きなきっかけですが、それ以外にも事業のステージに合わせて最適なタイミングが存在します。
例えば、事業規模の拡大を計画している時点や、消費税の納税義務が発生する見込みの時期などが挙げられます。
これらのタイミングで法人化を行うことで、税制上のメリットを最大限に活用し、事業の成長を円滑に進めることが可能になります。
自身の事業計画や将来の収支予測と照らし合わせ、戦略的に法人化のタイミングを見極めることが肝要です。

6-1. 新たな収益物件の購入を計画しているとき

新たな収益物件の購入は、法人化を検討する絶好のタイミングです。
物件を最初から法人名義で取得することで、個人から法人へ不動産を移転する際にかかる登録免許税や不動産取得税などのコストを節約できます。
また、金融機関によっては、個人の属性に加えて法人の事業計画や収益性を評価対象とするため、融資の選択肢が広がったり、より有利な条件で融資を受けられたりする可能性があります。
さらに、将来的な事業承継や相続を考えた場合でも、個人資産と事業用資産を明確に分離できるため、資産管理が容易になるというメリットもあります。
購入計画と同時に法人設立を進めることで、スムーズな資産形成が期待できます。

6-2. 消費税の課税事業者になることが見込まれる2年前

個人事業主として不動産投資を行い、課税売上高(家賃収入など)が1,000万円を超えると、その2年後から消費税の課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。この課税事業者になるタイミングを見越して法人を設立するのも有効な戦略です。
個人で課税事業者になる直前に法人を設立し、事業を法人に移管することで、法人として新たに最大2年間の免税事業者期間を享受できる可能性があります。
これにより、消費税の納税を先送りし、その分の資金を事業の拡大やキャッシュフローの改善に充てることが可能です。
ただし、制度の適用には一定の要件があるため、事前に税理士などの専門家に相談することが不可欠です。

個人事業主として不動産投資

7. 不動産投資の法人化に関するよくある質問

不動産投資における法人化を検討する際には、多くの疑問が生じます。
ここでは、デッドクロスのリスクや法人設立手続きの難易度、法人から個人への資金移動方法など、特によく寄せられる質問について簡潔に解説します。

7-1. デッドクロスを放置し続けると、どのようなリスクがありますか?

デッドクロスを放置すると、税金の支払いで手元の現金が枯渇し、黒字倒産に陥るリスクがあります。
帳簿上は利益が出ていても、キャッシュが不足するため、急な修繕費の発生や空室による家賃収入の減少に対応できなくなります。
最終的には、ローンの返済が滞る事態にもつながりかねません。

7-2. 法人設立の手続きは、専門家に依頼しないと難しいですか?

法人設立の手続きは、書籍やインターネットで調べながら自分で行うことも可能です。
しかし、定款の作成や登記申請など、専門的な知識が必要な場面も多く、時間と手間がかかります。
司法書士などの専門家に依頼すれば、スムーズかつ確実に手続きを進められるため、本業に集中したい場合は依頼する方が一般的です。

8. まとめ

減価償却期間の終了に伴う所得税の増加、いわゆるデッドクロスは、不動産投資のキャッシュフローを悪化させる深刻な問題ですが、法人化を検討する良い機会でもあります。
個人の所得税率と法人税率の違いから、課税所得が900万円を超えるあたりから法人化による節税メリットが大きくなる傾向にあります。
ただし、法人化には設立・維持コストや社会保険料の負担増といったデメリットも存在します。
自身の所得規模や将来の事業計画を総合的に勘案し、メリットがデメリットを上回ると判断できるタイミングで実行することが重要です。

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