法人の不動産購入と税金|節税メリット・デメリットと法人化の判断基準
法人の不動産購入と税金|節税メリット・デメリットと法人化の判断基準
法人で不動産購入を検討する際、税金の仕組みを理解することは極めて重要です。
個人での購入と比較して、法人には税率の違いや経費として認められる範囲の広さなど、多様な節税メリットが存在します。
しかし、法人設立や維持に伴うコストや事務的な負担といったデメリットも無視できません。
本記事では、不動産投資における法人化のメリット・デメリットを税金面から多角的に解説し、個人の状況に応じた最適な法人化の判断基準について詳しく見ていきます。
- 1. 法人と個人ではどう違う?不動産購入における税金の基本
- 2. 法人が不動産を購入する5つの税金メリット
- 2-1. 個人の所得税より低い法人税率が適用される
- 2-2. 経費として認められる範囲が個人より広い
- 2-3. 役員報酬を活用して所得を分散できる
- 2-4. 不動産事業の赤字を最大10年間繰り越せる
- 2-5. 相続時の評価額を抑え相続税対策につながる
- 3. 注意すべき法人の不動産購入における4つのデメリット
- 3-1. 法人設立費用や維持コストが発生する
- 3-2. 社会保険への加入義務や会計処理の負担が増える
- 3-3. 長期保有した不動産の売却益にかかる税金が高くなる場合がある
- 3-4. 居住用物件の購入に住宅ローンが使えない
- 4. 法人が不動産購入で節税効果を高める具体的な方法
- 4-1. 建物の減価償却費を計上して課税所得を圧縮する
- 4-2. 社宅制度を活用して家賃を経費として計上する
- 4-3. 生命保険料や出張手当も経費に含める
- 4-4. 不動産事業の赤字は他の事業所得と損益通算する
- 5. 不動産購入で法人化を検討すべき3つのタイミング
- 5-1. 課税所得が900万円を超えそうなとき
- 5-2. 事業規模の拡大を考えているとき
- 5-3. 相続税対策を本格的に始めたいとき
1. 法人と個人ではどう違う?不動産購入における税金の基本
法人と個人で不動産を購入する際の税金における基本的な違いは、適用される税率と経費の範囲です。
個人の不動産所得には所得税と住民税が課され、所得が多いほど税率が高くなる累進課税が適用されます。
一方、法人の利益には法人税などが課され、税率は一定です。
また、消費税の扱いも異なります。
法人が課税事業者である場合、建物の購入時に支払った消費税は、受け取った消費税から控除できます。
ただし、設立から2年間など一定の要件を満たす場合は免税事業者となり、この還付は受けられません。
購入から3年以内にその物件を売却した場合には、還付された消費税を返還する必要が生じるケースもあります。
2. 法人が不動産を購入する5つの税金メリット
法人が不動産を購入する場合、個人での購入に比べて多くの税金対策が可能です。
最大のメリットは、個人の所得税に適用される累進課税よりも低い法人税率が適用される点にあります。
また、個人事業主よりも経費として認められる範囲が広く、役員報酬や退職金、生命保険料なども損金算入できるため、課税所得を効果的に圧縮できます。
さらに、赤字を繰り越せる期間が個人より長く、相続発生時には不動産そのものではなく会社の株式が評価対象となるため、相続税対策としても有効に機能します。
2-1. 個人の所得税より低い法人税率が適用される
法人が不動産投資で得た利益には法人税が課されますが、その税率は個人の所得税率と比較して大きなメリットがあります。
個人の所得税は、所得が増えるほど税率も高くなる超過累進課税が採用されており、最高税率は住民税と合わせると55%に達します。
一方、法人税率は資本金や所得額によって異なりますが、おおむね一定の税率です。
例えば、資本金1億円以下の中小法人の場合、所得800万円以下の部分には軽減税率が適用されます。
そのため、不動産所得が高額になるほど、個人で高い所得税を納めるよりも、法人として法人税を納める方が税負担を軽減できる可能性が高まります。
2-2. 経費として認められる範囲が個人より広い
法人で不動産を所有すると、個人事業主の場合よりも経費として計上できる費用項目が大幅に広がります。
個人事業主では事業との関連性を明確に証明する必要がある費用も、法人では認められやすい傾向があります。
具体的には、役員や従業員への給与(役員報酬)や賞与、退職金、生命保険料、社宅の家賃などが挙げられます。
これらの費用を損金として計上することで、法人の利益を圧縮し、結果的に法人税の負担を軽減することが可能です。
特に、経営者自身への役員報酬や退職金は、個人の所得形成と法人の節税を両立させる上で重要な経費項目となります。
2-3. 役員報酬を活用して所得を分散できる
法人化により、経営者自身や家族を役員に設定し、役員報酬を支払うことが可能になります。
この役員報酬は法人の経費として計上できるため、法人の利益を圧縮し、法人税の課税対象額を減らす効果があります。
同時に、報酬を受け取る役員個人にとっては給与所得となり、給与所得控除が適用されるため、所得税の計算上有利になります。
不動産所得を法人にプールするだけでなく、役員報酬という形で計画的に個人へ所得を分散させることで、法人と個人の両方で税負担を最適化できます。
家族を役員にすれば、世帯全体での所得分散も実現可能です。
2-4. 不動産事業の赤字を最大10年間繰り越せる
法人が青色申告の承認を受けている場合、不動産事業で生じた赤字(欠損金)を翌事業年度以降、最大10年間にわたって繰り越すことが可能です。
これは繰越欠損金控除と呼ばれる制度で、将来黒字が発生した際に、繰り越した赤字と相殺して課税所得を減らせます。
例えば、大規模修繕などで一時的に大きな赤字が出たとしても、その損失を将来の利益で補填できるため、長期的な視点での税負担の平準化が図れます。
個人の青色申告では赤字の繰越期間が最大3年間であるため、10年間という長い期間は法人ならではの大きなメリットといえます。
2-5. 相続時の評価額を抑え相続税対策につながる
法人が所有する不動産は、相続が発生した際に直接の相続財産とはなりません。
相続の対象となるのは、その法人の株式(自社株)です。
不動産を現金や個人の所有物として相続する場合、その評価額は時価や路線価を基に算出されます。
しかし、自社株の評価額は、会社の純資産や収益性などを基に複雑な計算を経て算出されるため、一般的に不動産そのものの評価額よりも低く抑えられる傾向があります。
この仕組みを利用することで、相続財産の評価額を圧縮し、結果として相続税の負担を軽減する効果が期待できます。
計画的な事業承継や資産移転を目指す上で、この税金対策は非常に有効です。
3. 注意すべき法人の不動産購入における4つのデメリット
法人が不動産を購入する際には、税金面でのメリットだけでなく、デメリットや注意点も理解しておく必要があります。
まず、株式会社や合同会社の設立には、定款認証費用や登録免許税といった初期費用がかかり、事業が赤字であっても法人住民税の均等割など、毎年一定の維持コストが発生します。
また、会計処理が個人よりも複雑になることや、社会保険への加入が義務付けられるなど、金銭的・事務的な負担が増加する点も考慮しなければなりません。
これらの点を踏まえ、メリットがデメリットを上回るか慎重な判断が求められます。
3-1. 法人設立費用や維持コストが発生する
法人を設立する際には、定款の認証手数料や登録免許税、司法書士への報酬など、初期費用として数十万円程度が必要になります。
株式会社か合同会社かによって費用は異なりますが、個人事業主のように費用をかけずに事業を開始することはできません。
さらに、法人を維持していくためにも継続的なコストが発生します。
最も代表的なものが法人住民税の均等割で、これは資本金の額や従業員数に応じて課税され、たとえ事業が赤字であっても毎年最低7万円程度を納付しなければなりません。
税理士に決算申告を依頼する費用も、個人の確定申告より高額になるのが一般的です。
3-2. 社会保険への加入義務や会計処理の負担が増える
法人を設立し、役員報酬を支払う場合、健康保険や厚生年金保険といった社会保険への加入が法律で義務付けられています。
保険料は法人と役員個人が折半して負担するため、法人の経費が増加するだけでなく、個人の手取り額にも影響します。
また、会計処理に関しても、個人の確定申告とは異なり、複式簿記による厳密な帳簿作成や、法人税申告書の作成が必要となります。
これらの会計処理は専門的な知識を要するため、多くの場合、税理士への依頼が不可欠となり、その顧問料も継続的な負担となります。
事務的な手続きの複雑化は、法人化の大きなデメリットの一つです。
3-3. 長期保有した不動産の売却益にかかる税金が高くなる場合がある
不動産を売却して利益(譲渡所得)が出た場合、税金の計算方法が個人と法人で異なります。
個人が5年を超えて保有した不動産を売却した場合、長期譲渡所得として分離課税が適用され、税率は所得税・住民税合わせて約20%に抑えられます。
しかし、法人の場合、不動産の売却益は他の事業利益と合算され、法人税の課税対象となります。
そのため、法人の所得全体が高額になる場合、実効税率が個人の長期譲渡所得の税率を上回ってしまう可能性があります。
特に、将来的に売却を視野に入れている不動産については、どちらが有利になるか出口戦略を考慮した上で判断することが重要です。
3-4. 居住用物件の購入に住宅ローンが使えない
個人が自身や家族の居住用として住宅を購入する場合、低金利で長期間の返済が可能な住宅ローンを利用できます。
しかし、住宅ローンはあくまで個人の居住を目的とした融資制度であるため、法人が不動産を購入する際には利用できません。
法人が不動産購入の資金調達を行う場合は、事業用ローンや不動産投資ローン(アパートローンなど)を組むことになります。
これらのローンは、一般的に住宅ローンと比較して金利が高く、審査基準も厳しくなる傾向があります。
特に、設立間もない法人や事業実績の少ない法人の場合、希望する金額の融資を受けることが難しいケースも少なくありません。
4. 法人が不動産購入で節税効果を高める具体的な方法
法人が不動産を購入するメリットを最大限に活かすためには、具体的な節税手法を理解し、計画的に実行することが不可欠です。
例えば、建物の減価償却費を計上することで課税所得を圧縮したり、社宅制度を設けて家賃の一部を経費として扱ったりする方法があります。
また、生命保険や出張手当といった制度を活用して損金の範囲を広げることも有効です。
これらの手法を組み合わせることで、法人税の負担を最適化し、キャッシュフローを改善させることが可能になります。
4-1. 建物の減価償却費を計上して課税所得を圧縮する
不動産購入費用のうち、土地は価値が減少せず、建物は経年劣化するため、その価値の減少分を減価償却費として毎年経費計上できます。
減価償却費は、実際の現金の支出を伴わない帳簿上の費用であるため、キャッシュフローを悪化させることなく課税所得を圧縮できる強力な節税策です。
特に中古物件の場合、法定耐用年数が新築よりも短く設定されるため、1年あたりの減価償却費を大きく計上できます。
これにより、購入初期に大きな節税効果を得ることが可能です。
物件を選ぶ際には、建物の構造や築年数を確認し、減価償却のシミュレーションを行うことが重要です。
4-2. 社宅制度を活用して家賃を経費として計上する
法人が所有する物件を役員や従業員に社宅として貸し出すことで、節税につなげられます。
役員などから一定額の家賃(賃料相当額以上)を受け取っていれば、その物件の維持にかかる費用、例えば建物の減価償却費、固定資産税、損害保険料、修繕費などを法人の経費として計上できます。
役員個人が支払う家賃は、周辺の家賃相場よりも低く設定できるため、個人の住居費負担を軽減する効果もあります。
この社宅制度は、法人の経費を増やしながら、役員の可処分所得を実質的に増やすことができるため、法人・個人双方にとってメリットの大きい手法です。
4-3. 生命保険料や出張手当も経費に含める
不動産事業以外でも、法人は経費として計上できる項目が多岐にわたります。
例えば、法人を契約者、役員を被保険者とする生命保険に加入した場合、保険の種類や契約内容によっては、支払った保険料の全部または一部を損金として計上できます。
これは、役員の死亡退職金や弔慰金の準備資金となり、保障と節税を両立させる方法です。
また、出張旅費規程を整備すれば、役員や従業員の出張に対して日当(出張手当)を支給できます。
この出張手当は法人の経費となり、受け取った個人側では所得税や住民税が非課税となるため、有効な節税策の一つです。
4-4. 不動産事業の赤字は他の事業所得と損益通算する
法人が不動産事業のほかに本業など別の事業を行っている場合、損益通算を活用できます。
損益通算とは、ある事業で生じた赤字を、他の事業で得た黒字と相殺できる制度です。
不動産事業では、減価償却費の計上などにより、帳簿上は赤字になることがあります。
この赤字を本業の利益と合算することで、法人全体の課税所得を圧縮し、結果として法人税額を低く抑えることが可能です。
特に、本業の利益が大きく、納税額が高額になっている法人にとって、不動産投資は事業の多角化だけでなく、有効な節税手段となり得ます。
5. 不動産購入で法人化を検討すべき3つのタイミング
個人で不動産投資を行っている場合、どの時点で法人化に踏み切るべきか悩むケースは少なくありません。
法人化にはメリットがある一方で、設立や維持のコストも発生するため、タイミングの見極めが重要です。
一般的には、個人の課税所得額が一定のラインを超えるときや、事業規模の拡大を具体的に計画しているとき、そして相続対策を本格的に考え始めたときが、法人化を検討する主なタイミングといえます。
これらの状況に応じて、シミュレーションを行い、最適な判断を下す必要があります。
5-1. 課税所得が900万円を超えそうなとき
個人と法人の税率差を考慮すると、法人化を検討する一つの目安は、個人の課税所得が900万円を超えるタイミングです。
個人の所得税は超過累進課税であり、課税所得が900万円を超えると税率が33%(住民税と合わせると43%)に上がります。
一方、資本金1億円以下の中小法人の場合、所得800万円までは軽減税率が適用され、それを超える部分についても個人の税率より低くなることがほとんどです。
そのため、不動産所得やその他の事業所得を合わせた課税所得が900万円に近づいてきたら、法人化した場合の税額と比較検討し、税負担が軽くなるようであれば法人成りを選択するのが合理的です。
5-2. 事業規模の拡大を考えているとき
所有物件を増やし、不動産投資を事業として本格的に拡大していく計画がある場合も、法人化を検討すべきタイミングです。
法人は個人事業主と比較して社会的信用度が高く、金融機関からの評価も得やすい傾向にあります。
そのため、新規物件を購入するための融資審査において、法人のほうが有利に進むケースが多く見られます。
複数の物件を管理・運営していく上での経理処理の明確化や、将来的な事業承継のしやすさといった観点からも、事業規模の拡大を目指すのであれば、早期に法人格を取得しておくメリットは大きいといえます。
融資戦略の一環として法人化を捉える視点も重要です。
5-3. 相続税対策を本格的に始めたいとき
自身の資産を次世代へ円滑に引き継ぐことを考え始めたときも、法人化の重要な検討タイミングです。
前述の通り、個人で不動産を所有していると、相続時にはその不動産自体が相続財産となり、路線価などで高く評価されることがあります。
しかし、法人所有に切り替えることで、相続財産は自社株となり、株価評価の仕組みを利用して相続財産評価額を圧縮できる可能性があります。
また、家族を役員にして役員報酬を支払ったり、将来的に退職金を支給したりすることで、生前に計画的に財産を移転することも可能です。
相続税の負担軽減を視野に入れるなら、早めに専門家へ相談し、法人化の準備を進めることが有効です。
6. まとめ

法人が不動産を購入する場合、個人の所得税より低い法人税率の適用や、経費として認められる範囲の広さ、欠損金の長期繰越など、多くの税制上のメリットがあります。これらは効果的な節税につながる一方、法人設立・維持のコスト、会計処理の煩雑化、社会保険の加入義務といったデメリットも存在します。
不動産購入を機に法人化を検討する際は、個人の課税所得が900万円を超えるか、事業規模の拡大を目指すか、相続税対策が必要かといったタイミングが重要な判断基準となります。
自身の状況や将来の計画を総合的に勘案し、税理士などの専門家にも相談しながら、法人化の是非を慎重に判断することが求められます。
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