事業承継税制とは?特例の要件やメリット・デメリットをわかりやすく解説
事業承継税制とは?特例の要件やメリット・デメリットをわかりやすく解説
事業承継税制とは、中小企業の事業承継を円滑に進めるための税制支援制度です。
この制度は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」に基づいており、後継者が会社の株式などを先代経営者から引き継ぐ際の贈与税や相続税の納税を猶予または免除するものです。特に、期間限定の特例措置は、多くの中小企業にとって利用価値の高い内容となっています。
- 1. 事業承継税制とは?後継者の税負担を軽減する制度
- 2. 事業承継時の贈与税・相続税が猶予または免除される仕組み
- 3. 【比較】一般措置と特例措置は何が違うのか
- 3-1. 期間限定で要件が緩和された特例措置
- 3-2. 恒久的な制度である一般措置
- 4. 事業承継税制(特例措置)を活用するメリット
- 4-1. 株式承継にかかる贈与税・相続税の納税が100%猶予される
- 4-2. 複数の後継者への承継も制度の対象となる
- 4-3. 一定要件を満たせば猶予された税金の支払いが免除される
- 5. 事業承継税制(特例措置)のデメリットと注意点
- 5-1. 特例承継計画の提出には期限がある
- 5-2. 制度適用後も毎年、都道府県と税務署への報告が必要
- 5-3. 要件を満たさなくなると納税猶予が打ち切られる
- 6. 事業承継税制(特例措置)を利用するための適用要件
- 6-1. 先代経営者(贈与者・被相続人)が満たすべき要件
- 6-2. 制度適用後に継続して満たすべき要件
- 7. 事業承継税制の申請から適用までの手続きの流れ
- 7-1. 生前贈与で事業承継する場合の手順
- 7-2. 相続で事業承継する場合の手順
1. 事業承継税制とは?後継者の税負担を軽減する制度
事業承継税制は、後継者が会社の株式等を先代経営者から贈与または相続によって取得した際に課される、多額の贈与税や相続税の納税を猶予し、最終的には免除する制度です。
この制度の目的は、税負担が原因で中小企業の事業承継が滞ることを防ぎ、円滑な世代交代を促進することにあります。
税法上の特例として位置づけられており、一定の要件を満たすことで、事業の継続に必要な資金を確保しつつ、経営のバトンタッチを可能にします。
2. 事業承継時の贈与税・相続税が猶予または免除される仕組み
この制度を利用すると、後継者が承継した非上場株式等にかかる贈与税や相続税の納税が猶予されます。
これは単なる支払いの先延ばしではなく、一定の要件を満たし続けることで、猶予された税額の納付が最終的に免除される仕組みです。
例えば、後継者が死亡した場合や、次の後継者へ再びこの制度を使って株式を承継した場合には、猶予税額の納付が免除され、実質的に税負担が0円になる可能性があります。
これにより、承継時の資金的な負担を大幅に軽減できます。
3. 【比較】一般措置と特例措置は何が違うのか
事業承継税制には、恒久的な「一般措置」と、2018年度の税制改正で創設された「特例措置」の2種類が存在します。
両者の大きな違いは、納税猶予の対象となる株式の範囲です。
一般措置では対象が発行済議決権株式総数の最大3分の2までですが、特例措置では全株式が対象となります。
例えば、評価額3億円の株式を承継する場合、一般措置の猶予対象は2億円分ですが、特例では3億円全額が対象となり、納税猶予額の計算例にも大きな差が出ます。
3-1. 期間限定で要件が緩和された特例措置
この措置の最大の特徴は、納税猶予の対象となる株式数に上限がなく、全ての株式が対象となる点です。
また、後継者の対象も拡大され、一般措置では1人に限定されるのに対し、特例措置では最大3人まで同時に制度を利用できます。
さらに、承継後の雇用確保要件も緩和されるなど、多くの中小企業が利用しやすいように設計されています。
利用するには、2026年3月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出する必要があります。
3-2. 恒久的な制度である一般措置
一般措置は、特例措置のような期限がなく、いつでも利用できる恒久的な制度です。
ただし、特例措置と比較すると要件が厳しく設定されています。
納税猶予の対象となる非上場株式は、発行済議決権株式総数の3分の2が上限であり、後継者も1人に限定されます。
特例措置の適用期限を過ぎた場合や、特例措置の要件を満たせない場合には、この一般措置の利用を検討することになります。
国税に関する基本的な事業承継支援策として、今後も存続する制度です。
4. 事業承継税制(特例措置)を活用するメリット
事業承継税制の特例措置を活用する最大のメリットは、後継者の納税負担を大幅に軽減できる点にあります。
通常であれば高額になりがちな非上場株式の承継にかかる税金が猶予・免除されることで、事業の運転資金や設備投資に資金を回すことが可能になり、経営の安定化に繋がります。
また、複数の後継者への承継にも対応できるなど、現代の多様な承継ニーズに合わせた柔軟な利用が可能です。
4-1. 株式承継にかかる贈与税・相続税の納税が100%猶予される
特例措置における最大の利点は、後継者が取得した全ての非上場株式について、その贈与税または相続税の全額、100%の納税が猶予されることです。
一般的に、業績の良い会社の非上場株式は評価額が高額になり、後継者がその評価額に見合った納税資金を個人で準備することは極めて困難です。
この制度を活用することで、承継時における後継者の資金的な負担が実質的になくなり、自己資金を事業の維持・発展のために用いることが可能となります。
これにより、資金繰りの悪化を防ぎ、円滑な事業承継が実現しやすくなります。
4-2. 複数の後継者への承継も制度の対象となる
一般措置では後継者は1名に限定されますが、特例措置では、先代経営者から最大3人までの後継者へ株式を分散して承継する場合でも、それぞれが制度の適用を受けられます。
これにより、兄弟姉妹や共同経営者など、複数の人材で会社を経営していく現代的な事業承継のスタイルにも柔軟に対応できます。
それぞれの後継者が猶予の対象となるため、後継者間の公平性を保ちながら、円滑な世代交代を進めることが可能です。
さらに、次の世代、例えば3代目への承継時にも要件を満たせば納税が免除されます。
4-3. 一定要件を満たせば猶予された税金の支払いが免除される
納税猶予は単なる支払いの先延ばしではありません。
制度適用後、一定の要件を満たすことで、猶予されていた税金の納付義務そのものが免除されます。
具体的な免除事由としては、納税猶予を受けている後継者が死亡した場合や、承継から5年経過後に次の後継者へ株式を贈与し、その後継者が再び事業承継税制の適用を受ける場合などが挙げられます。この免除規定により、実質的に税負担なく次の世代へ事業を引き継いでいくことが可能となり、企業の永続的な発展を税制面から支える仕組みになっています。
5. 事業承継税制(特例措置)のデメリットと注意点
事業承継税制はメリットが大きい一方で、いくつかのデメリットや注意点も存在します。
特例措置を利用するためには、提出期限が定められた計画書が必要であり、制度適用後も毎年、行政への報告義務が課せられます。
また、定められた要件を継続して満たす必要があり、もし要件から外れた場合は猶予が打ち切られ、多額の税金を一括で納付するリスクも伴います。
これらの点を十分に理解した上で、計画的に活用を検討することが不可欠です。
5-1. 特例承継計画の提出には期限がある
特例措置の適用を受けるためには、贈与や相続を開始する前に「特例承継計画」を策定し、都道府県庁に提出してその認定を受ける必要があります。
この計画には、承継までの経営見通しや承継後の事業計画などを記載します。
この期限を過ぎてしまうと、特例措置を利用した事業承継は行えなくなります。
したがって、制度の活用を検討している場合は、早めに専門家と相談し、計画的に準備を進めることが求められます。
5-2. 制度適用後も毎年、都道府県と税務署への報告が必要
納税猶予の適用を受けた後も、手続きが完了するわけではありません。
納税猶予が継続している期間中は、毎年1回、事業の状況などを記載した年次報告書を都道府県に提出する必要があります。
これに加えて、税務署に対しても継続届出書を提出しなくてはなりません。
この年次報告を怠ると、納税猶予が打ち切られる事態になりかねません。
毎年、継続的な事務手続きと管理が求められる点は、この制度を利用する上での負担の一つと言えます。
報告義務を失念しないよう、管理体制を整えておくことが重要です。
5-3. 要件を満たさなくなると納税猶予が打ち切られる
納税猶予期間中に、定められた要件を満たせなくなった場合、納税猶予は打ち切られます。
例えば、後継者が代表者を退任した場合、対象株式の一部でも譲渡した場合、承継後5年間の平均で従業員数が承継時の8割を下回った場合などが該当します。
猶予が打ち切られると、猶予されていた税額の全額または一部と、納税が遅れた期間に応じた利子税を合わせて一括で納付しなければなりません。
この利子税の負担により、本来納めるべきだった税額よりも多額の資金が必要になるリスクがあり、税額の再計算が行われます。
6. 事業承継税制(特例措置)を利用するための適用要件
事業承継税制(特例措置)を利用するためには、対象となる会社、株式を譲る先代経営者、そして株式を受け継ぐ後継者のそれぞれが、定められた適用要件を全て満たす必要があります。
これらの要件は、贈与・相続時だけでなく、制度適用後も継続して満たさなければならないものも含まれます。
一つの要件でも欠けると制度の対象とならないため、事前に自社の状況が要件に合致しているかを詳細に確認することが不可欠です。
6-1. 先代経営者(贈与者・被相続人)が満たすべき要件
制度の対象となる先代経営者(贈与者・被相続人)は、いくつかの要件を満たす必要があります。
まず、会社の代表者であった実績が求められます。
生前贈与の場合は、贈与時に代表者を退任していなければなりません。
また、贈与または相続の直前において、先代経営者とその親族などの同族関係者で、会社の議決権の過半数を保有しており、かつ、後継者を除いた同族内で筆頭株主であったことが必要です。特例措置では、一般措置と異なり贈与者の年齢要件(原則70歳以上)は問われません。
6-2. 制度適用後に継続して満たすべき要件
納税猶予を受けた後も、承継後の5年間は厳格な要件を継続して満たす必要があります。
具体的には、後継者は会社の代表者であり続けなければならず、承継した株式も継続して保有することが求められます。
また、雇用の維持も重要な要件であり、承継時の従業員数と比較して、5年間の平均で8割以上を維持しなくてはなりません。
この5年間の継続要件を満たせない場合、納税猶予が打ち切られるリスクがあるため、承継後の事業計画においても十分に配慮が必要です。
7. 事業承継税制の申請から適用までの手続きの流れ
事業承継税制を利用するための手続きは専門的な知識を要するため、計画的に進める必要があります。
その流れは株式の承継が生前贈与によって行われるか、相続によって行われるかで異なります。
特に特例措置を利用する場合は、事前の「特例承継計画」の提出が不可欠です。
全体の流れを把握し、税理士などの専門家や公的なマニュアルを参考にしながら、遺漏なく手続きを進めることが重要です。
7-1. 生前贈与で事業承継する場合の手順
生前贈与による事業承継の全体の流れは、まず「特例承継計画」を策定し、都道府県に提出して認定を受けることから始まります。
この計画の提出期限は2026年3月31日です。
認定を受けた後、先代経営者から後継者へ株式の贈与を実行します。
その後、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの贈与税の申告期間内に、税務署へ贈与税の申告書と納税猶予の適用を受けるための申請書類を提出します。
この際、都道府県からの認定書の写しや担保の提供に関する書類も必要となります。
7-2. 相続で事業承継する場合の手順
相続によって事業承継を行う場合、手続きは先代経営者の死去後に開始されます。
並行して、遺産分割協議などを進め、株式を承継する後継者を確定させます。
その後、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内が相続税の申告・納付期限となるため、この期限内に税務署へ相続税の申告書と納税猶予の申請書類を提出します。
生前贈与と比べて短期間で手続きを進める必要があり、事前の準備がより重要となります。
8. まとめ
事業承継税制とは、後継者が非上場株式等を承継する際の贈与税や相続税の負担を実質的になくすことで、中小企業の円滑な世代交代を支援する制度です。
特に特例措置は、納税猶予の対象が全株式に及ぶなど大きなメリットがあります。
しかし、その適用を受けるためには、会社、先代経営者、後継者のそれぞれが満たすべき複雑な要件があり、制度適用後も雇用の維持や毎年の報告義務などが課せられます。
これらの要件を一つでも満たせなくなると、猶予が打ち切られるリスクも伴います。
制度の活用を検討する際は、専門家と相談の上、計画的に準備を進めることが不可欠です。
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