2025/11/25
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相続税の基礎控除改正はいつから?改正前の金額との違いを比較

相続税の基礎控除改正はいつから?改正前の金額との違いを比較

相続税の基礎控除は、相続税を計算する際に遺産の総額から差し引ける非課税枠のことです。 この基礎控除額がいつから変更されたのか、改正前と後で具体的にどう変わったのかは、相続を考える上で重要なポイントになります。 平成27年に行われた税制改正により、相続税の基礎控除額は大幅に引き下げられ、それまで対象外だった多くの人も課税対象となりました。この記事では、相続税の基礎控除がいつ改正されたのか、改正前の金額との違い、そして相続税の対象になるかを確認する手順や対策について解説します。

1. 相続税の基礎控除は平成27年(2015年)に改正された

相続税の基礎控除額が現在のかたちに改正されたのは、平成27年(2015年)1月1日です。 この日以降に発生した相続から、新しい基礎控除額が適用されています。 具体的には、被相続人(亡くなった方)が亡くなった日が平成27年1月1日以降である場合に、改正後の計算式が用いられます。 この改正の大きな特徴は、基礎控除額が従来の6割にまで引き下げられた点です。この変更により、相続税の申告や納税が必要となる人の範囲が大きく広がり、特に都市部に土地や家屋を所有している家庭にとっては、相続税がより身近な問題となりました。 この税制改正は、富の再分配機能を強化し、社会的な格差を是正する目的で実施されたものです。

2. 【比較】相続税の基礎控除額は改正でどう変わった?

平成27年の税制改正により、相続税の基礎控除額は大幅に縮小されました。 この変更は、相続税の課税対象者の裾野を広げる大きな要因となりました。 改正前と改正後では、基礎控除額を算出するための計算式そのものが変更されており、法定相続人の数が同じであっても、控除できる金額が大きく異なります。具体的には、定額で控除される部分と、法定相続人の数に応じて変動する部分の両方が引き下げられました。 この基礎控除額の推移を正確に理解することは、自身の相続において納税義務が発生するかどうかを判断する第一歩となります。

2-1. 改正前の基礎控除額の計算式(〜平成26年)

平成26年12月31日までに発生した相続に適用されていた基礎控除額の計算式は、「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」でした。 この計算式では、まず法定相続人の数に関わらず一律で5,000万円が控除され、さらに法定相続人一人あたり1,000万円が加算される仕組みになっていました。 例えば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人いる場合、基礎控除額は5,000万円に3人分の3,000万円を加えた合計8,000万円となります。 したがって、遺産の総額が8,000万円以下であれば、相続税はかかりませんでした。この時期は、現在よりも控除額が大きかったため、相続税の課税対象となるのは一部の富裕層に限られる傾向がありました。

2-2. 改正後の基礎控除額の計算式(平成27年〜)

平成27年1月1日以降の相続に適用されている現行の基礎控除額の計算式は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。 改正前と比較すると、定額部分が5,000万円から3,000万円に、法定相続人一人あたりの加算額が1,000万円から600万円へと、それぞれ4割削減されています。 例えば、法定相続人が3人の場合、基礎控除額は3,000万円に3人分の1,800万円を加えた合計4,800万円となります。改正前の8,000万円と比べると、3,200万円も控除額が減少したことになります。 なお、計算に用いる法定相続人の数には、養子も含めることができますが、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までという上限が設けられています。

3. 基礎控除だけじゃない!平成27年相続税改正の3つのポイント

平成27年の相続税改正は、基礎控除の引き下げが最も注目されていますが、変更点はそれだけではありませんでした。 富裕層に対する課税を強化する一方で、特定の条件下にある相続人の負担を軽減する措置も同時に講じられています。具体的には、相続税の最高税率が引き上げられたほか、居住用の土地に対する特例の適用要件緩和や、未成年者・障害者のための控除額の拡充など、多岐にわたる変更が行われました。 これらの改正点を総合的に理解することで、相続税の全体像をより正確に把握できます。

3-1. 相続税の最高税率が引き上げられた

平成27年の改正では、基礎控除の引き下げと同時に、相続税の税率構造も見直されました。 特に大きな変更点は、最高税率の引き上げです。 改正前は、法定相続分に応ずる取得金額が3億円超の場合に最高税率50%が適用されていましたが、改正後は新たに「6億円超」の区分が設けられ、その税率が55%に引き上げられました。また、これに伴い他の税率区分も細分化され、「2億円超3億円以下」は45%、「3億円超6億円以下」は50%というように、全体的に富裕層への課税が強化されるかたちとなりました。 この税率引き上げは、資産の集中を緩和し、格差の固定化を防ぐという目的を持っており、基礎控除の引き下げと合わせて、相続税の課税強化の柱となっています。

3-2. 小規模宅地等の特例の適用要件が緩和された

課税が強化される一方で、相続人の生活基盤を守るための緩和措置も講じられました。 その代表例が「小規模宅地等の特例」の適用要件緩和です。 この特例は、被相続人が住んでいた自宅の土地などを相続した場合に、その土地の評価額を最大80%減額できる制度です。平成27年の改正により、特に居住用の宅地(特定居住用宅地等)について、特例を適用できる面積の上限が240平方メートルから330平方メートル(約100坪)に拡大されました。 これにより、都心部やその近郊で比較的広い敷地の自宅を相続した場合でも、特例を最大限活用しやすくなりました。 この緩和は、相続によって住む家を失うことがないように配慮されたもので、多くの相続人にとって大きなメリットとなります。

3-3. 未成年者控除と障害者控除の金額が拡充された

相続人の中に未成年者や障害者がいる場合の税負担を軽減するため、「未成年者控除」と「障害者控除」の控除額も拡充されました。 未成年者控除は、改正前の「6万円×(20歳-相続時の年齢)」から「10万円×(成人年齢-相続時の年齢)」に変更されました。 なお、民法改正により令和4年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられたため、現在は18歳を基準に計算します。一方、障害者控除も、一般障害者の場合は「6万円×(85歳-相続時の年齢)」から「10万円×(85歳-相続時の年齢)」へ、特別障害者の場合は「12万円×(85歳-相続時の年齢)」から「20万円×(85歳-相続時の年齢)」へと、それぞれ控除額が引き上げられました。 これにより、社会的弱者とされる相続人への配慮がより手厚くなりました。

4. なぜ相続税の基礎控除は引き下げられたのか?

相続税の基礎控除が引き下げられた主な理由は、格差の是正と税収の確保です。 この方針は、平成24年度の税制改正大綱で示されました。 バブル期以降の地価下落などにより、相続税の課税対象者は減少し続けており、富の再分配機能が弱まっていると指摘されていました。そこで、比較的資産規模の小さい層にも課税範囲を広げることで、世代間の富の移転をより公平にし、社会全体の格差拡大を抑制する狙いがありました。 また、少子高齢化が進む中で、将来的な社会保障財源を確保するという財政的な側面も大きな理由の一つです。 基礎控除を引き下げることで課税対象者を増やし、安定した税収を確保することが国の目的でした。

5. 基礎控除の改正で起こった2つの大きな影響

平成27年の基礎控除引き下げは日本の相続事情に大きな変化をもたらしました。 これまで相続税は一部の富裕層の問題と捉えられがちでしたが、この改正を機に一般的な家庭においても無視できない税金となったのです。具体的には相続税の申告が必要となる人の数が大幅に増加したこと、そして課税対象となった場合に一人ひとりが納める税額が増加したことという2つの大きな影響が現れました。 この結果多くの人が相続税対策の必要性を認識するきっかけとなりました。

5-1. 相続税の申告が必要になる人が約2倍に増えた

基礎控除額が4割削減されたことによる最も直接的な影響は、相続税の課税対象者の増加です。 国税庁の統計によると、改正前の平成26年において亡くなった人のうち相続税の課税対象となった人の割合(課税割合)は4.4%でした。 しかし、改正後の平成27年には8.0%へと急増し、その後も8%台で推移しています。 これは、亡くなった方のうち相続税申告が必要な人の割合が、改正を境に約2倍になったことを意味します。特に、地価の高い都市部では、自宅不動産だけで基礎控除額を超えてしまうケースが増加しました。 これにより、これまで相続税とは無縁と考えていた多くの中流階級の家庭も、新たに課税対象者となりました。

5-2. 一人ひとりが納める相続税の額も増加した

基礎控除の引き下げは、新たに課税対象となる人が増えただけでなく、もともと課税対象であった人の納税額も増加させる結果となりました。 相続税は、遺産総額から基礎控除を差し引いた「課税遺産総額」に対して課税されます。 基礎控除額が少なくなった分、課税遺産総額が大きくなり、結果として算出される税額も増える仕組みです。例えば、法定相続人が1人の場合、基礎控除額は2,400万円減少するため、その2,400万円分が新たに課税対象に加わります。 仮にこの部分に15%の税率が適用されれば、納税額は360万円増加します。 遺産額が500万円や1,000万円基礎控除を上回るようなケースでは、納税額への影響はさらに大きくなります。

6. 【シミュレーション】法定相続人3人の場合の相続税額を比較

基礎控除の改正が実際にどれほどのインパクトを持つのかを理解するために、具体的な事例でシミュレーションを行ってみましょう。 ここでは、遺産総額を9,000万円、法定相続人を配偶者と子2人の合計3人と仮定します。 このケースについて、改正前の基準と改正後の基準でそれぞれ相続税額を計算し、比較します。法定相続人が2人の場合や4人の場合でも、計算の基本的な考え方は同じです。 この比較を通じて、基礎控除額の違いが最終的な納税額にどのように影響するかを具体的に確認できます。

6-1. 改正前の基礎控除を適用した場合の計算例

遺産総額9,000万円、法定相続人3人のケースを改正前の基準で計算します。 まず、基礎控除額は「5,000万円+1,000万円×3人=8,000万円」となります。 次に、課税対象となる遺産総額(課税遺産総額)は、遺産総額から基礎控除額を差し引いて算出するため、「9,000万円-8,000万円=1,000万円」です。この1,000万円を法定相続分(配偶者1/2、子それぞれ1/4)で按分し、それぞれの取得金額に応じた税率をかけて各人の税額を計算し、最後に合計します。 このケースでは、配偶者の取得分は500万円(税額0円)、子2人はそれぞれ250万円(税額0円)となり、相続税の総額は0円でした。 つまり、改正前であればこの家庭に相続税は発生しませんでした。

6-2. 改正後の基礎控除を適用した場合の計算例

次に、同じ条件(遺産総額9,000万円、法定相続人3人)を改正後の現行基準で計算します。 まず、基礎控除額は「3,000万円+600万円×3人=4,800万円」です。 課税遺産総額は、「9,000万円-4,800万円=4,200万円」となります。 この4,200万円を法定相続分で按分すると、配偶者が2,100万円、子2人がそれぞれ1,050万円です。それぞれの取得金額に税率を乗じて税額を計算し、合計すると相続税の総額は約180万円となります(配偶者の税額軽減を適用する前の金額)。 このように、同じ遺産総額と家族構成であっても、改正後は新たに約180万円の納税義務が発生することになり、その影響の大きさがわかります。

7. あなたは対象?相続税がかかるか確認する3ステップ

相続税の基礎控除改正により、課税対象者が増えたことを受けて、自身が相続税の対象になるのか不安に感じる人も多いかもしれません。 しかし、専門家に相談する前に、まずは自分で大まかに確認することが可能です。 ここでは、相続税がかかるかどうかを判断するための基本的な手順を、わかりやすく3つのステップに分けて解説します。このステップを踏むことで、相続税申告の必要性の有無を把握し、早期の対策検討につなげることができます。 もし、この確認で対象となる可能性が高いと判断された場合は、専門家への相談を検討すると良いでしょう。

7-1. ステップ1:相続する財産をすべてリストアップする

最初のステップは、被相続人(亡くなった方)が所有していたプラスの財産をすべて洗い出すことです。 相続税の課税対象となる遺産には、現金や預貯金はもちろん、土地や建物といった不動産、株式や投資信託などの有価証券、自動車、貴金属、ゴルフ会員権なども含まれます。 また、死亡保険金や死亡退職金も「みなし相続財産」として課税対象になります。これらの財産を一つひとつリストアップし、それぞれの価値を概算で評価していきます。 不動産は路線価や固定資産税評価額、有価証券は亡くなった日の終値などを参考に評価額を算出します。 この財産の洗い出しと評価が、相続税計算のすべての基礎となります。

7-2. ステップ2:借金などマイナスの財産を差し引く

次に、プラスの財産の合計額から、被相続人が残したマイナスの財産を差し引きます。 マイナスの財産には、住宅ローンや借入金といった債務、未払いの税金(住民税や固定資産税)、未払いの医療費などが該当します。 また、被相続人の葬式費用(香典返し費用などを除く)も、遺産総額から控除することが認められています。これらのマイナスの財産や費用を正確に把握し、ステップ1で算出したプラスの財産の合計額から差し引くことで、相続税を計算する上での正味の遺産額が確定します。 債務などを漏れなく計上することが、正確な税額計算には不可欠です。

7-3. ステップ3:遺産総額と基礎控除額を比べる

最後のステップは、ステップ2で算出した正味の遺産総額と、相続税の基礎控除額を比較することです。 基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。 例えば、法定相続人が配偶者と子2人の合計3人であれば、基礎控除額は4,800万円です。 この基礎控除額と正味の遺産総額を比べて、「遺産総額が基礎控除額を上回る」場合には、相続税の申告と納税が必要になります。逆に、「遺産総額が基礎控除額以下」であれば、原則として相続税の申告は不要です。 この比較によって、相続税の課税対象となるかどうかの最初の判断ができます。

8. 相続税の負担を軽くするための主な対策

相続税の課税対象となることが判明した場合でも、さまざまな制度や手法を活用することで、税負担を軽減することが可能です。 対策には、相続が発生した後に利用できる特例や控除と、生前のうちから計画的に進めておくべき贈与などがあります。代表的なものとして、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった相続後の手続きで適用を受けるものや、生命保険の非課税枠の活用、暦年贈与などがあります。 これらの対策を自身の状況に合わせて組み合わせることで、より効果的に相続税の負担を抑えることができます。

8-1. 配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を活用する

相続が発生した後に利用できる制度として、「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地等の特例」が挙げられます。 配偶者の税額軽減は、配偶者が取得した遺産額が「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか多い金額までであれば、相続税がかからないという制度です。 これにより、多くの場合で配偶者の税負担はゼロになります。小規模宅地等の特例は、被相続人の自宅や事業用の土地を相続した場合に、その評価額を最大で80%減額できる制度です。 これらの特例を適用するためには、相続税の申告期限内に申告書を提出する必要があるため、要件を満たすかどうかを事前に確認し、忘れずに手続きを行うことが重要です。

8-2. 生命保険の非課税枠を利用して納税資金を準備する

生命保険は、相続税対策として非常に有効な手段の一つです。 被相続人が保険料を負担し、相続人が受取人となっている死亡保険金には、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設けられています。 例えば、法定相続人が3人いれば、1,500万円までの保険金が非課税となります。 この非課税枠を活用することで、相続財産そのものを減らす効果があります。さらに、生命保険金は遺産分割協議の対象外となる受取人固有の財産であるため、他の相続人の同意なしで速やかに現金を受け取ることができます。 これにより、相続税の納税資金や葬儀費用など、急な出費に備えることが可能です。

8-3. 暦年贈与や相続時精算課税制度で生前に財産を移す

生前のうちから計画的に財産を次世代に移転させる「生前贈与」も、有効な相続税対策です。 代表的な方法である「暦年贈与」は、一人あたり年間110万円までの贈与であれば贈与税がかからない制度です。 この非課税枠を利用して、毎年少しずつ財産を贈与していくことで、将来の相続財産を減らすことができます。ただし、相続開始前7年以内(2024年1月1日以降の贈与が対象、段階的に延長)の贈与は相続財産に加算されるルールに変更された点に注意が必要です。 また、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫へまとまった額を贈与したい場合には、最大2,500万円まで贈与税が非課税となる「相続時精算課税制度」の利用も選択肢となります。

9. まとめ

平成27年1月1日に施行された税制改正により、相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」へと大幅に引き下げられました。 この改正の結果、相続税の課税対象者は約2倍に増加し、これまで相続税とは無縁だった多くの家庭にとっても身近な税金となりました。 自身が課税対象になるかを確認するには、まずプラスの財産をすべてリストアップし、そこから借入金などのマイナスの財産を差し引いて正味の遺産総額を算出します。 その金額が基礎控除額を超える場合、相続税の申告が必要です。もし課税対象となる場合でも、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例、生命保険の非課税枠の活用、計画的な生前贈与など、様々な対策を講じることで税負担を軽減できます。

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