2025/11/25
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地主の相続はなぜ大変?遺産を守るための相続税対策を解説

地主の相続はなぜ大変?遺産を守るための相続税対策を解説

地主の相続は、所有する遺産の大部分が不動産であるという特性上、多くの課題を抱えています。 高額になりがちな相続税の納税資金をいかに確保するか、そして不動産という分割しにくい遺産をどう分けるかは、避けて通れない問題です。 これらの問題を放置すると、相続人同士のトラブルに発展したり、大切な土地を手放さざるを得なくなったりする可能性があります。そうならないためにも、生前から計画的に税対策を進めることが、資産を守る上で極めて重要です。 本記事では地主の相続がなぜ大変なのか、その理由と具体的な対策を解説します。

1. 地主の相続が「大変」と言われる3つの理由

地主の相続が困難を極める背景には、大きく分けて3つの理由が存在します。 第一に、所有する不動産の数が多く、権利関係も複雑なため、財産の全体像を正確に把握すること自体が難しい点です。第二に、遺産の大部分を占める不動産は現金のように簡単に分割できないため、相続人間で不公平感が生まれやすく、争いの火種となり得ます。 そして第三に、資産価値の高さから相続税額が非常に大きくなり、納税資金の確保に窮するケースが少なくありません。 これらの問題は互いに関連し合っています。

1-1. 理由1:所有する土地や不動産の全体像が把握しにくい

地主は先祖代々受け継いできた土地を多数所有していることが多く、その全容を正確に把握するのは容易ではありません。 自宅の敷地だけでなく、賃貸アパートの土地、月極駐車場、農地、山林など、その種類は多岐にわたります。 中には、他人に貸している借地や、逆に他人の土地を借りている借地権が混在している場合もあります。 さらに、私道や共有名義の不動産など、権利関係が複雑な資産も少なくありません。これらの不動産一つひとつの所在や評価額、権利関係を洗い出して財産目録を作成する作業は非常に煩雑であり、相続の準備を進める上での最初の大きなハードルとなります。

1-2. 理由2:遺産分割で相続人同士のトラブルが起きやすい

地主の遺産は不動産が中心であり、預貯金のように明確な金額で均等に分割することが困難です。 例えば、自宅と収益物件を兄弟で分ける場合、それぞれの評価額や将来性、管理の手間などを考慮すると、完全に公平な分割はほぼ不可能です。 特定の相続人が家業を継ぐために多くの不動産を相続する必要がある場合、他の相続人との間で不満が生じやすくなります。こうした状況は、相続人同士の関係に亀裂を生じさせ、深刻なトラブル、いわゆる「争族」へと発展する原因となり得ます。 財産の分け方を巡る意見の対立が、家族の絆を壊してしまうケースは決して珍しくありません。

1-3. 理由3:相続税が高額になり現金での納税が難しい

地主の資産は、評価額の高い不動産が大部分を占める一方で、金融資産は比較的少ないという特徴があります。 相続税は資産の評価額に対して課税されるため、都心部やその近郊に土地を所有している場合、相続税の総額が数千万円から数億円に上ることもあります。 しかし、相続税は原則として現金で一括納付しなければなりません。手元に十分な現金がない場合、納税資金を捻出するために、先祖から受け継いだ大切な土地や収益性の高い不動産を売却せざるを得ない状況に追い込まれます。 この納税資金の問題が、地主の相続における最も切実で大きな課題の一つです。

2. まずは基本から!相続税の計算ステップを理解しよう

相続税対策を検討する前に、まずは相続税がどのように計算されるのか、その基本的な仕組みを理解しておくことが重要です。 相続税は、亡くなった方から受け継いだ遺産の総額が基礎控除額を超える場合に課税されます。計算プロセスは、①不動産を含む全財産の評価額の算出、②課税対象となる遺産総額の確定、③基礎控除額の差し引き、④各相続人の納税額の算出、というステップで進みます。 この流れを把握することで、自身のケースでどれくらいの税金がかかる可能性があるのかを概算でき、具体的な対策の必要性を認識できます。

2-1. ステップ1:土地など不動産の評価額を算出する

相続税計算の出発点は、相続財産の価値を評価することから始まります。 特に地主の場合、資産の大部分を占める土地の評価が極めて重要です。 土地の評価方法は主に2種類あり、市街地では国税庁が定める「路線価」を基に計算する路線価方式が、郊外や農村部など路線価が定められていない地域では固定資産税評価額に一定の「倍率」を乗じて計算する倍率方式が用いられます。土地の形状や接道状況、貸地か更地かといった利用状況によって評価額は大きく変動するため、正確な評価には高度な専門知識が求められます。 したがって、相続に詳しい税理士などの専門家に評価を依頼することが一般的です。

2-2. ステップ2:課税対象となる遺産総額を確定させる

不動産の評価額が算出できたら、次に預貯金、有価証券、生命保険金(非課税枠を超える部分)、自動車など、金銭に見積もることができるすべてのプラスの財産を合計します。 これが相続財産の総額です。 しかし、課税対象となるのはプラスの財産だけではありません。被相続人が残した借入金や未払金といったマイナスの財産(債務)や、葬儀費用は、財産の総額から差し引くことが可能です。 このプラスの財産からマイナスの財産を差し引いた金額が、課税価格の合計額、すなわち課税対象となる遺産の総額となります。 この金額を正確に把握することが、相続税計算の基礎となります。

2-3. ステップ3:基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を計算する

課税対象となる遺産の総額が確定したら、次に相続税の基礎控除額を差し引きます。 基礎控除額は、相続税が課税されるかどうかのボーダーラインとなる金額で、すべての相続に適用されます。 その計算式は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」です。 例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人いる場合、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)で4,800万円となります。遺産の総額がこの基礎控除額以下であれば、相続税はかからず、申告も不要です。 遺産の総額が基礎控除額を超える場合に、その超えた部分の金額が「課税遺産総額」として相続税の計算対象となります。

2-4. ステップ4:各相続人の納税額を算出する

課税遺産総額が算出されたら、次に相続税の総額を計算します。 この計算は、まず課税遺産総額を法定相続分で分割したものと仮定し、各相続人の取得金額にそれぞれ定められた税率を乗じて税額を算出後、それらを合計して行います。この方法で相続税の総額を一旦確定させた後、その総額を、実際の遺産分割協議や遺言で定められた各相続人の取得割合に応じて按分します。 これにより、各相続人が実際に納めるべき納税額が確定します。 なお、配偶者には「配偶者の税額軽減」といった特例があり、これを適用することで納税額が大幅に軽減される場合があります。

3. 生前から始めるべき!地主のための効果的な相続税対策7選

地主の相続対策は、単に税金を減らす「節税対策」だけではありません。 高額な相続税を支払うための現金を確保する「納税資金対策」と、相続人同士の争いを避けるための「遺産分割対策」という3つの視点から、総合的に進める必要があります。これらの対策は、相続が発生してからでは手遅れになることも多いため、被相続人が元気なうちから生前に対策を始めることが極めて重要です。 ここでは、それぞれの視点から有効な7つの具体的な対策を紹介します。 どの対策が最適かは個々の状況によって異なるため、専門家と相談しながら進めるのが賢明です。

3-1. 【節税】生前贈与を活用して財産を計画的に移す

生前贈与は、将来の相続財産を前もって減らしておくことで、相続税の負担を軽減する基本的な対策です。 年間110万円までの贈与であれば贈与税がかからない「暦年贈与」を活用し、長期間にわたって子や孫など複数の相続人に財産を分散して移転させれば、大きな節税効果が期待できます。また、まとまった額を贈与したい場合には「相続時精算課税制度」を選択することも可能です。 ただし、相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に加算されるルールがあるため注意が必要です。 早い段階から計画的に贈与を進めることで、着実に相続財産を圧縮し、将来の税負担を軽くすることが可能になります。

3-2. 【節税】賃貸アパートを建てて土地の評価額を下げる

所有している更地に賃貸アパートやマンションを建設することは、有効な相続税対策の一つです。 他人に貸し出すための建物が建っている土地は「貸家建付地」となり、更地の状態よりも相続税評価額が2割程度低くなります。 また、建物自体も他人に貸している「貸家」として評価されるため、固定資産税評価額からさらに約3割減額されます。さらに、アパート建設のために金融機関から借り入れた資金は債務として相続財産から控除できるため、課税対象額を大きく圧縮する効果があります。 ただし、空室リスクや将来の修繕費なども考慮した上で、慎重に事業計画を立てる必要があります。

3-3. 【節税】小規模宅地等の特例で評価額を最大80%減額する

小規模宅地等の特例は、被相続人が住んでいた土地や事業を営んでいた土地について、一定の要件を満たす場合にその土地の相続税評価額を最大で80%減額できる非常に強力な制度です。 例えば、5,000万円と評価される自宅の土地を配偶者や同居の親族が相続した場合、この特例を適用できれば評価額が1,000万円まで圧縮され、相続税が大幅に軽減されます。この特例の適用を受けるためには、土地の面積や相続する人、相続後の利用継続など細かい要件が定められているため、自身が対象となるか事前に専門家へ確認し、適用できるように準備を進めておくことが重要です。

3-4. 【節税】不動産管理会社を設立して所得を分散する

複数の賃貸物件を所有し、相当額の不動産所得がある地主の場合、不動産管理会社を設立して法人化することも有効な対策です。 個人として得ていた家賃収入を法人の収入とし、そこから家族を役員にして役員報酬を支払う形にすれば、所得を分散できます。これにより、個人の所得税や住民税の負担を軽減できるだけでなく、個人の金融資産の増加を抑制し、将来の相続財産を増やさない効果が期待できます。 また、法人契約の生命保険を活用するなど、個人ではできない多様な節税策を展開することも可能になります。 ただし、法人設立や維持にはコストがかかるため、一定以上の事業規模が必要です。

3-5. 【納税資金】生命保険の非課税枠を利用して現金を準備する

相続税の納税資金を確保する上で、生命保険は非常に有効な手段です。 被相続人を被保険者とし、相続人を受取人とする生命保険金には、「500万円×法定相続人の数」という非課税枠が設けられています。 例えば法定相続人が3人いれば、1,500万円までは相続税の課税対象にならずに現金を受け取ることが可能です。この死亡保険金は、被相続人の預金口座が凍結されていても、受取人固有の財産として比較的短期間で現金化できるため、相続税の納税期限である10ヶ月以内に確実に資金を準備する上で大きな役割を果たします。 計画的に加入しておくことで、安心して納税に備えられます。

3-6. 【納税資金】収益性の低い土地は売却して現金化する

所有している不動産の中には、固定資産税ばかりがかかって収益を生まない土地や、管理が難しい遠隔地の土地などが含まれている場合があります。 このような資産価値や収益性の低い土地は、被相続人が元気なうちに売却を検討するのも一つの賢明な選択です。売却によって得た現金は、将来の相続税の納税資金として確保できるほか、遺産分割が容易な金融資産へと形を変えることができます。 また、資産の組み換えによって、より収益性の高い不動産に投資することも可能です。 所有不動産の棚卸しを行い、資産ポートフォリオを最適化する視点を持つことが、納税資金対策と資産防衛の両面で重要となります。

3-7. 【分割】遺言書を作成して相続トラブルを未然に防ぐ

地主の相続において、不動産という分けにくい財産を巡るトラブルを回避するためには、遺言書の作成が極めて有効です。 遺言書によって、どの土地を誰に相続させるのかを被相続人の意思として明確に示しておくことで、相続人同士が遺産分割協議で争うことを未然に防げます。特に、事業を後継者に引き継がせたい場合や、特定の相続人に多く財産を残したいといった意向がある場合には必須です。 法的に有効な遺言書を作成するためには、自筆証書遺言や公正証書遺言などの形式や要件を守る必要があります。 専門家のアドバイスを受けながら、自分の想いを確実に実現できる遺言書を準備しておくことが大切です。

4. 相続が発生した後に押さえておくべき重要ポイント

万全の生前対策を行っていても、実際に相続が発生した際には、相続人が行わなければならない手続きが数多くあります。 特に相続税の申告と納税は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内という厳格な期限が定められており、迅速かつ正確な対応が求められます。 この期限に間に合わないと、ペナルティが課される可能性もあります。また、どうしても現金での納税が困難な場合には、延納や物納といった救済措置も用意されているため、その制度内容を事前に理解しておくことも重要です。

4-1. 相続税の申告と納税は10ヶ月以内に行う

相続税の申告と納税には、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内という期限が定められています。 この期間は長いように感じられるかもしれませんが、実際には戸籍謄本の収集、相続人の確定、財産目録の作成、不動産の評価、遺産分割協議など、行わなければならない作業が山積しています。特に地主の相続では、財産評価に時間がかかる傾向があります。 期限までに申告と納税を完了させないと、本来納めるべき税金に加えて無申告加算税や延滞税といった追徴課税が発生する可能性があります。 相続が開始されたら、速やかに税理士などの専門家に相談し、計画的に手続きを進めることが不可欠です。

4-2. 納税が困難な場合は延納や物納を検討する

相続税は現金一括納付が原則ですが、遺産の大部分が不動産である地主の場合、期限までに納税資金を準備できないケースも少なくありません。 そのような場合には、一定の要件を満たすことを条件に、年賦で分割して納める「延納」や、現金に代わって不動産そのもので税金を納める「物納」という制度の利用を検討できます。ただし、延納には利子税がかかり、物納は延納によっても金銭での納付が困難な場合にのみ認められる最終手段です。 どちらの制度も適用を受けるためには税務署の許可が必要であり、申請手続きも複雑なため、利用を考える場合は早急に税務署や税理士に相談し、要件を確認する必要があります。

5. 遺産分割を円滑に進めるための遺言書の書き方と注意点

遺言書は、遺産分割における相続人間のトラブルを防ぐための最も強力なツールです。 しかし、ただ作成すれば良いというものではなく、その内容が相続人全員に受け入れられ、円満な相続を実現するためには、いくつかの重要なポイントと注意点があります。特に、分けにくい不動産を多く所有する地主の場合、誰にどの土地を相続させるのかを具体的に示すことや、相続人の最低限の権利である遺留分に配慮することが不可欠です。 また、法的な効力だけでなく、家族への想いを伝える工夫も大切になります。

5-1. 誰にどの土地を相続させるか具体的に明記する

遺産分割で揉めないための遺言書を作成する上で最も重要なことは、財産の分け方を具体的に記載することです。 「長男にA土地、次男にB土地を相続させる」といった形で、どの不動産を誰に相続させるのかを明確に指定します。その際、不動産を特定するために、登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されている通りに、所在、地番、地目、地積を正確に記述することが求められます。 「自宅不動産」のような曖昧な表現では、どの範囲の土地を指すのかが不明確で、かえってトラブルの原因となりかねません。 具体的に明記することで、遺産分割協議の必要がなくなり、スムーズな名義変更手続きが可能となります。

5-2. 相続人全員の遺留分に配慮した内容にする

遺言書では、被相続人が自由に財産の分け方を指定できますが、法律では配偶者や子など一定の相続人(兄弟姉妹を除く)に、最低限の遺産取得割合として「遺留分」を保障しています。 例えば「全財産を長男に相続させる」といった、他の相続人の遺留分を侵害する内容の遺言も法的には有効ですが、遺留分を侵害された相続人は、財産を多く受け取った相続人に対して「遺留分侵害額請求」を行う権利があります。これが新たなトラブルの火種となり、訴訟に発展するケースも少なくありません。 争いを避けるためには、遺言書を作成する段階で、各相続人の遺留分を考慮した分割案にすることが賢明です。

5-3. 付言事項で家族への想いを伝えて納得感を高める

遺言書には、財産分割などの法的な効力を持つ「遺言事項」のほかに、法的な効力はないものの、家族へのメッセージなどを自由に記せる「付言事項」という欄を設けることができます。 この付言事項を活用し、なぜそのような遺産分割にしたのかという理由や、これまでの感謝の気持ち、残された家族に仲良く暮らしてほしいという願いなどを自分の言葉で綴ることが、円満な相続につながります。財産だけが記載された無機質な遺言書よりも、被相続人の想いが伝わることで、相続人はその内容に納得しやすくなります。 法的な拘束力はなくても、相続人の感情に配慮する上で非常に重要な役割を果たします。

6. まとめ

地主の相続は、財産の大部分が分割しにくい不動産であること、財産評価や権利関係が複雑であること、相続税が高額になりやすいことから、多くの困難を伴います。 これらの課題に対処するためには、生前の段階から計画的に準備を進めることが不可欠です。具体的な対策としては、生前贈与や不動産の法人化による「節税対策」、生命保険の活用や資産の組み換えによる「納税資金対策」、そして遺言書の作成による「遺産分割対策」が挙げられます。 どの対策が最適かは、資産の状況や家族構成によって異なるため、相続に詳しい税理士や弁護士といった専門家に相談し、自身の家庭に合った相続計画を早期に立案、実行することが重要です。

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