2025/11/25
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資産管理会社とは?個人投資家が設立する目的とメリットを解説

資産管理会社とは?個人投資家が設立する目的とメリットを解説

資産管理会社とは、個人が所有する不動産や株式などの資産管理を目的として設立する法人のことです。 個人投資家が資産管理会社はなぜ必要なのか、その意味は主に節税にあります。 個人の所得に適用される累進課税を避け、法人税率の適用を受けることで税負担を軽減することが、設立の大きな目的の一つです。本記事では、資産管理会社の具体的なメリット・デメリットから設立手順までを解説します。

1. 資産管理会社の基本的な役割と仕組み

資産管理会社の主な役割は、オーナーとなる個人の資産を法人名義で保有し、その運用・管理を行うことです。 具体的には、個人が所有する不動産や株式を資産管理会社に売却または現物出資する形で法人に移し、その後の家賃収入や配当金を個人の収入ではなく法人の収入源に変更します。 これにより、法人として投資や資産運用を行い、経営するという仕組みです。この活用例は、個人の所得税率よりも低い法人税率の適用を目指すことが基本となり、事業内容は資産の運用・管理が中心になります。

2. 個人投資家が資産管理会社を設立する主な目的

多くの個人投資家が資産管理会社を設立する最大の目的は、節税効果を得ることです。 個人の所得は、所得が高くなるほど税率も上がる累進課税が適用され、最大で住民税と合わせて55%にも達します。これに対し、法人税は一定の税率が適用されるため、ある一定以上の所得がある場合、個人として納税するよりも法人を設立して納税する方が、全体の税負担を軽減できる可能性があります。 この税率の差を活用することが、資産管理会社を通じた節税の基本的な考え方となります。

3. 資産管理会社を設立する8つのメリット

資産管理会社を作るメリットは、税負担の軽減だけではありません。 所得を家族に分散して一族全体の手取り額を増やしたり、個人事業主よりも幅広い費用を経費として計上できたりと、複数のメリットが存在します。また、事業で赤字が出た場合の繰越控除期間が長くなる、相続税対策として有効に機能するなど、長期的な資産形成と承継においても有利に働く側面があります。 ここでは、資産管理会社のメリットを8つの観点から具体的に解説します。

3-1. 法人税率の適用で所得税を軽減できる

資産管理会社を設立する最大のメリットは、個人の所得税よりも低い法人税率が適用される点です。 個人の所得税は累進課税制度により、所得が増えるほど税率も高くなりますが、法人税率は基本的に一定です。そのため、不動産からの収入や株式の配当金といった利益を個人の所得ではなく法人の利益として計上することで、適用される税率を抑えることが可能になります。 法人から個人へは、役員報酬や配当という形で資金を移転させますが、給与所得控除などの各種控除も活用できるため、トータルの税負担を軽減する効果が期待できます。

3-2. 家族へ役員報酬を支払い所得を分散できる

資産管理会社を設立すると、家族を役員に就任させ、その業務実態に応じて役員報酬を支払うことが可能になります。 例えば、社長である自分だけでなく、配偶者や子供、親、兄弟などを役員とすることで、一人に集中しがちな所得を家族内で分散できます。これにより、個々人に適用される所得税の税率を低く抑えることができ、一族全体で見た場合の手取り収入を増やす効果が見込めます。 報酬額は業務内容に見合った適正な範囲で設定する必要がありますが、所得分散は有効な節税策の一つです。

3-3. 個人より広い範囲の費用を経費に計上できる

法人化することで、個人事業主と比較して経費として認められる費用の範囲が広がります。 例えば、生命保険料の一部や、自宅を事務所として使用する場合の家賃相当額、社用車の購入・維持費用などを法人の経費として計上しやすくなります。また、将来的に自分の退職金制度を設けて、その掛金を損金として算入することも可能です。 これらの費用を経費として計上することで課税対象となる所得を圧縮できるため、経理上のメリットは大きいと言えます。 条件によっては補助金の対象になる場合もあります。

3-4. 他の事業所得との損益通算が可能になる

資産管理会社を設立し、その法人で複数の事業を運営している場合、ある事業で生じた赤字を他の事業で得た黒字と相殺することができます。 これを損益通算と呼びます。 例えば、不動産賃貸事業で赤字が出ても、株式投資やコンサルティングといった副業で利益が出ていれば、それらを法人内で合算して課税所得を計算するため、全体の税負担を軽減できます。個人の場合、損益通算できる所得は不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4資産に関連するものに限られますが、法人にはそのような制限がありません。

3-5. 赤字の繰越控除期間が個人より長くなる

事業で赤字、すなわち欠損金が生じた場合、その赤字を翌年以降に発生した黒字と相殺して税負担を軽減できる「繰越控除」という制度があります。 個人事業主(青色申告者)の場合、この繰越が認められる期間は最大で3年間です。 これに対して、法人の場合は欠損金の繰越控除期間が10年間(2018年4月1日以降に開始した事業年度の場合)と、個人よりも大幅に長くなっています。これにより、大規模な初期投資などで初年度に大きな赤字が出たとしても、より長期的な視点で将来の利益と相殺し、税負担を平準化することが可能です。

3-6. 相続財産の評価額を抑え相続税対策になる

個人で所有している不動産や株式を資産管理会社に移しておくことは、有効な相続税対策となります。 相続が発生した際、相続の対象となる財産は個々の不動産や現金そのものではなく、それらの資産を保有する会社の株式(自社株)です。 自社株の評価額は、現金や不動産を直接相続する場合の評価額よりも低く抑えられるケースが多く、結果として相続税の負担を軽減できる可能性があります。また、資産が法人名義になることで、オーナーが認知症になっても資産凍結のリスクを避けられ、スムーズな遺産分割にもつながります。

3-7. 株式の譲渡でスムーズな事業承継が実現できる

資産管理会社を利用することで、将来の事業承継を円滑に進めることが可能です。 オーナーが保有する資産は会社の株式という形に集約されているため、後継者への引き継ぎは、この持株を譲渡または相続させることで完了します。不動産のように一つ一つの資産の名義変更手続きを行う必要がなく、手続きが大幅に簡素化されます。 株式の移転によって会社の経営権(議決権)が後継者に移るため、オーナーの意思に基づいたスムーズな事業承継が実現できます。

3-8. 役員として社会保険に加入できる

資産管理会社を設立し、自身が役員となって役員報酬を受け取る場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務付けられます。 個人事業主が加入する国民年金と比較して、厚生年金は将来受け取れる年金額が手厚くなるというメリットがあります。また、健康保険に加入することで、病気やケガで働けなくなった際の傷病手当金などの保障も受けられます。 保険料は会社と個人で半分ずつ負担するため、全額自己負担となる国民健康保険料よりも負担が軽くなるケースもあります。

4. 資産管理会社を設立する前に知っておきたいデメリット

資産管理会社の設立はメリットばかりではなく、いくつかのデメリットや注意点も存在します。 法人を設立・維持するためには相応のコストがかかり、個人の資産を法人に移す際には税金が発生することもあります。また、会社の資産は個人が自由には使えず、会計処理や税務申告の手間も増大します。 これらのデメリットを設立前に十分に理解し、自身の状況と照らし合わせて慎重に検討することが不可欠です。

4-1. 法人設立には初期費用が発生する

法人の設立には、個人事業の開業とは異なり、法定費用をはじめとする初期費用が必要です。 株式会社を設立する場合、公証役場に支払う定款認証手数料が約5万円、法務局に納める登録免許税が最低でも15万円(資本金の額によって変動)かかります。設立手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合には、さらにその手数料が上乗せされます。 合同会社の場合は定款認証が不要で登録免許税も最低6万円と比較的安価ですが、それでも一定のコストが発生することは避けられません。

4-2. 法人住民税など年間維持費が必要になる

資産管理会社は、事業で利益が出ていなくても、法人として存在するだけで毎年必ず発生する維持費があります。 その代表が法人住民税の均等割で、これは会社の資本金や従業員数に応じて課税される税金であり、事業が赤字であっても最低で年間7万円程度を納付しなければなりません。このほか、複雑な法人の税務申告を税理士に依頼する場合の顧問料もランニングコストとして発生します。 これらの年間維持費は、事業規模が小さい段階では大きな負担となる可能性があります。

4-3. 個人資産を法人へ移す際に税金がかかる場合がある

個人が所有している資産を設立した資産管理会社へ移動させる際には、予期せぬ税金がかかる場合があります。 例えば、含み益のある不動産を法人へ売却(譲渡)した場合、その利益に対して個人に譲渡所得税が課されます。また、法人側では不動産取得税や登記にかかる登録免許税を負担しなければなりません。 有価証券等の金融資産を移す際も同様で、時価で譲渡したとみなされ、利益が出ていれば譲渡所得税の対象となります。 個人の資産の移動は、税務上の影響を慎重に検討する必要があります。

4-4. 会社の資産は個人的に自由に使えなくなる

一度法人名義にした資産は、法的に会社の所有物となります。 たとえ自分が100%株主のオーナー社長であっても、会社の預金や資産を個人的な目的で自由に使用することはできません。法人の資金を個人的な用途で引き出した場合、それは会社から個人への貸付金や役員賞与とみなされ、税務上の問題が生じる可能性があります。 会社の資産は事業目的のために固定され、個人が資金を得るには役員報酬や配当といった正式な手続きを踏む必要があります。

4-5. 会計処理や税務申告の手間が増える

法人を設立すると、会計処理や税務申告の義務が個人事業主よりも格段に複雑かつ厳格になります。 日々の取引を複式簿記で正確に記録し、年に一度の決算月には貸借対照表や損益計算書などの決算書類を作成して、法人税の申告を行わなければなりません。これらの作業には専門的な知識が必要となるため、多くの場合、税理士といった専門家への相談や業務依頼が不可欠です。 それに伴う費用が発生するだけでなく、領収書の整理や帳簿の管理といった日常的な事務負担も増加します。

5. 資産管理会社の設立を検討すべき人の特徴

資産管理会社の設立は、すべての人にメリットがあるわけではありません。 特に設立を検討すべきなのは、不動産所得や事業所得など、給与所得以外の所得が相当額に上る人です。 具体的には、複数の収益物件を所有する個人事業主、副業収入が高額になったサラリーマン、そして将来の相続を見据える富裕層などが挙げられます。例えば、年間所得が1億円を超えるような投資家や経営者が、1人で会社を設立するケースも少なくありません。 自身の資産規模や収益構造を鑑みて、法人化の要否を判断する必要があります。

5-1. 不動産や株式で多額の収益がある個人投資家

アパートやマンションといった賃貸物件を複数所有し、高額な家賃収入がある不動産投資家は、資産管理会社設立のメリットを大きく享受できる典型例です。 個人の不動産所得は他の所得と合算されて高い累進税率が適用されやすいため、法人化によって税率を抑える効果が期待できます。同様に、株式や債券などの金融資産から多額の配当金や売却益を得ている個人投資家も設立を検討する価値があります。 法人名義で土地を購入したり、サブリースやリース契約を結んだりすることで、資産管理の効率化と節税を両立させることが可能です。

5-2. 副業所得が高額になったサラリーマン

本業である会社からの給与所得に加え、不動産投資やコンサルティング、ウェブサイト運営などの副業による所得が高額になったサラリーマンも、資産管理会社の設立が有効な選択肢となり得ます。 給与所得と副業の事業所得は総合課税として合算されるため、所得全体が膨らみ、高い所得税率が適用されてしまいます。そこで、副業部分を法人化し、その収入を法人の利益とすることで、個人にかかる累進課税を回避することが可能です。 法人から役員報酬として給与を受け取る形にすれば、給与所得控除を二重に適用できるメリットもあります。

5-3. 将来の相続税対策を考えている資産家

多くの不動産や金融資産を保有し、次世代への資産承継とそれに伴う相続税を課題としている資産家にとって、資産管理会社は極めて有効な対策手段です。 個人資産を法人に移すことで相続財産が自社株となり、現金や不動産を直接相続するよりも財産評価額を低く抑えられる可能性があります。また、家族を役員にして役員報酬を支払うことや、自社株を生前に計画的に贈与することで、スムーズな資産移転と相続税の納税資金対策を同時に進めることが可能です。 法人格を持つことで、金融機関からの融資やローンの借入がしやすくなるという側面もあります。

6. 所得がいくらになったら設立を考えるべき?判断の目安

資産管理会社の設立を検討する上で、最も重要な判断基準の一つが「どのタイミングで設立するか」です。 一般的に、個人の所得税率が法人税の実効税率を上回る所得水準が、法人化を考える一つの目安とされています。 所得の種類や経費の規模によって異なりますが、課税所得が800万円から900万円を超えると、所得税・住民税の合計税率が法人税率を上回る可能性が高まります。この分岐点を基準に、下の比較表などを参考にしながら、自身の状況に合った設立のタイミングを検討することが求められます。

7. 資産管理会社を設立するための具体的な手順

資産管理会社の設立を決めたら、次にその具体的な手続きを理解する必要があります。 実際に会社を作ってみた場合の流れは、まず会社の基本事項を決定し、次に会社のルールブックである定款を作成して公証役場の認証を受け、その後資本金を払い込み、最終的に法務局へ設立登記を申請するというステップで進みます。これらの手続きを一つずつ着実にクリアしていくことで、法人格を取得し、資産管理会社としての活動を始めることができます。

7-1. 会社の基本事項(商号・本店所在地など)を決める

会社設立の最初のステップは、会社の基本的な枠組みを決めることです。 まず、会社の顔となる商号(社名法人名)を考えます。 類似商号の調査を行い、他社と混同されない名称を選ぶことが重要です。 次に、事業内容を具体的に定めた「事業目的」、登記上の住所となる「本店所在地」、そして「資本金の額」や「事業年度(決算月)」を決定します。さらに、会社の発起人(出資者)や役員(代表者など)を誰にするか、その人数も含めて確定させます。 これらの基本事項は、会社の憲法ともいえる定款の記載内容となります。

7-2. 定款を作成し認証を受ける

会社の基本事項が固まったら、それらの内容を盛り込んだ定款を作成します。 定款は、会社の組織や運営に関する根本規則を定めた書類であり、会社設立手続きにおいて最も重要な書類の一つです。 定款には、決定した商号、本店所在地、事業目的、資本金の額などを正確に記載します。株式会社を設立する場合、作成した定款は、その内容の正当性を証明してもらうために、公証役場にて認証手続きを受ける必要があります。 この認証済みの定款がなければ、次の設立登記申請に進むことはできません。

7-3. 資本金を払い込む

定款の認証手続きが完了したら、次に定款で定めた資本金を払い込みます。 この手続きは、発起人(出資者)が定めた出資額を、発起人代表者の個人名義の銀行口座に振り込む形で行います。会社設立のための専用口座はまだ存在しないため、既存の預金口座を使用します。 法律上、資本金は1円からでも設立可能ですが、会社の信用度や当面の運転資金を考慮し、適切な金額を設定することが一般的です。 振込が完了したら、通帳の該当ページのコピーをとり、これが資本金が確かに払い込まれたことを証明する書類となります。

7-4. 法務局へ設立登記の申請を行う

資本金の払込みが完了し、必要書類がすべて整ったら、最終ステップとして本店所在地を管轄する法務局へ会社の設立登記を申請します。 この登記申請日が、法的な会社の設立日となります。 申請には、設立登記申請書、認証を受けた定款、役員の就任承諾書、資本金の払込証明書など、多数の書類を添付する必要があります。書類に不備がなければ、申請からおおむね1週間から2週間ほどで登記が完了し、会社の登記簿謄本や印鑑証明書が取得可能になります。 これで、資産管理会社が法的に誕生します。

8. まとめ

資産管理会社とは、個人が所有する資産を法人名義で管理・運用するために設立される法人の略称であり、プライベートカンパニーとも呼ばれます。 日本においても、多くの資産家や有名企業の創業者一族が、所得税・法人税の税率差を利用した節税、相続税対策、円滑な事業承承継などを目的に活用しています。設立には多くのメリットがある反面、設立・維持にはコストや手間がかかるというデメリットも存在します。 自身の資産規模や所得状況、将来の計画などを総合的に勘案し、専門家にも相談の上で設立を判断することが重要です。

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