家族信託と成年後見人・任意後見制度の違いを比較|認知症対策に最適なのは?
家族信託と成年後見人・任意後見制度の違いを比較|認知症対策に最適なのは?
認知症などによる判断能力の低下で資産が凍結されるリスクに備えるため、家族信託と成年後見制度という2つの方法があります。 どちらも財産管理を目的としますが、その仕組みや権限の範囲は大きく異なります。 この記事では、両制度の明確な違いを比較し、どのような状況でどちらの制度が適しているのかを解説します。それぞれのメリット・デメリットを理解し、自身の状況に最適な認知症対策を見つけるための判断材料を提供します。
- 1. 認知症による資産凍結に備える2つの制度「家族信託」と「成年後見制度」
- 1-1. 家族の意思で柔軟に財産を管理する「家族信託」の仕組み
- 1-2. 裁判所の監督のもとで本人を保護する「成年後見制度」の仕組み
- 2. 【比較表】家族信託と成年後見制度の重要な違いが一目でわかる
- 3. 目的別に解説!家族信託と成年後見制度の6つの違い
- 3-1. 財産管理を始められるタイミングはいつか
- 3-2. 財産の管理や処分における自由度の違い
- 3-3. 介護や入院手続きなどの身上監護は可能か
- 3-4. 家族以外の監督者や裁判所の関与は必要か
- 3-5. 制度利用にかかる初期費用と継続費用の比較
- 3-6. 相続発生後の財産の取り扱いはどうなるか
- 4. 家族信託を選ぶことのメリット
- 4-1. 希望通りの柔軟な財産管理や資産活用ができる
- 4-2. 裁判所の関与がなくスピーディーに手続きを進められる
- 4-3. 次世代への資産承継(遺言の代用)もスムーズに行える
- 5. 家族信託を利用する際のデメリット・注意点
- 5-1. 身上監護に関する契約(施設入所など)は行えない
- 5-2. 信託契約で定めた以外の財産は管理できない
- 5-3. 損益通算ができないなど税務上の制約がある
- 6. 成年後見制度を選ぶことのメリット
- 6-1. 身上監護によって本人の生活や療養を幅広くサポートできる
- 6-2. 本人が結んだ不利益な契約を取り消せる(取消権)
- 6-3. 裁判所や監督人が関与するため財産の不正利用を防ぎやすい
- 7. 成年後見制度を利用する際のデメリット・注意点
- 7-1. 財産は本人の利益のためにしか使えず、資産活用はできない
- 7-2. 専門家への報酬が継続的に発生する場合がある
- 7-3. 親族が後見人に選ばれるとは限らない
- 8. あなたに最適なのはどっち?状況に応じた選び方のポイント
- 8-1. 家族信託の利用がおすすめな人
- 8-2. 成年後見制度の利用がおすすめな人
- 9. 家族信託と任意後見制度の併用でそれぞれのデメリットを補う方法
- 9-1. 身上監護と柔軟な財産管理を両立させるための活用術
- 10. まとめ
1. 認知症による資産凍結に備える2つの制度「家族信託」と「成年後見制度」
認知症などで判断能力が低下すると、預貯金の引き出しや不動産の売却といった法律行為ができなくなる「資産凍結」の状態に陥ります。 このリスクへの対策として、「家族信託」と「成年後見制度」という2つの主要な制度が存在します。家族信託は、本人の意思に基づき家族に財産管理を託す柔軟な仕組みです。 一方、成年後見制度は、家庭裁判所の監督下で本人を法的に保護・支援する後見人制度であり、本人の財産を守ることを主眼としています。
1-1. 家族の意思で柔軟に財産を管理する「家族信託」の仕組み
家族信託は、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に自身の財産の管理や処分を任せる契約です。 本人の判断能力があるうちに契約を結び、認知症などで判断能力が低下した後も、受託者が契約内容に従って財産を管理し続けます。 この制度の最大の特徴は、契約内容を自由に設計できる柔軟性にあります。例えば、収益不動産の運営を継続したり、相続対策として資産の組み換えを行ったりと、成年後見人制度では難しい積極的な資産活用も可能です。 あくまで財産管理を目的とした私的な契約であり、家庭裁判所の関与がないため、迅速な意思決定ができる点も大きな違いです。
1-2. 裁判所の監督のもとで本人を保護する「成年後見制度」の仕組み
成年後見制度は、認知症や知的障がいなどにより判断能力が不十分な人を法的に保護し、支援するための制度です。 この制度は、家庭裁判所が後見人を選任し、その監督のもとで本人の財産管理や身上監護(介護サービスの契約など)を行います。 制度には、判断能力が低下する前にあらかじめ後見人を決めておく「任意後見制度」と、判断能力が低下した後に親族などが申し立てる「法定後見制度」の2種類があります。家族信託とは異なり、本人の財産を保護することが最優先されるため、積極的な資産活用は原則として認められず、財産を現状のまま維持することが基本となります。
判断能力があるうちに対策する「任意後見制度」
任意後見制度は、本人が十分な判断能力を有しているうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に財産管理や身上監護に関する代理権を与える契約を結んでおく制度です。 この契約は、公証人が作成する公正証書によって結ぶ必要があります。 法定後見制度との大きな違いは、本人の意思で後見人や支援内容を自由に決められる点にあります。ただし、実際に効力が発生するのは、本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してからとなります。 家族信託と似ていますが、裁判所の監督が入る点や、財産活用の自由度に違いがあります。
判断能力が低下してから申し立てる「法定後見制度」
法定後見制度は、すでに本人の判断能力が不十分な状態になった場合に、本人や配偶者、四親等内の親族などが家庭裁判所に申し立てることによって開始される制度です。 家庭裁判所が本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」のいずれかの類型を決定し、最も適任と判断した人物を成年後見人等として選任します。申立ての際に親族を候補者とすることは可能ですが、必ずしも選ばれるとは限らず、弁護士や司法書士などの専門家が就任することも少なくありません。 事前の対策が間に合わなかった場合のセーフティネットとしての役割を持ち、手続きの開始までには通常数ヶ月を要します。
2. 【比較表】家族信託と成年後見制度の重要な違いが一目でわかる
家族信託と成年後見制度(任意後見・法定後見)は、似ているようで多くの違いがあります。 どちらの制度を選ぶべきかを判断するためには、目的、開始時期、財産管理の自由度、身上監護の可否、監督者の有無、そして費用といった重要な項目を比較検討することが不可欠です。これらの違いを一覧で把握することで、ご自身の家庭の状況や将来の希望に、どちらの制度がより適しているのかを明確に理解する助けとなります。 以下の各項目で、それぞれの違いを詳しく解説していきます。
3. 目的別に解説!家族信託と成年後見制度の6つの違い
家族信託と成年後見制度は、認知症対策として検討される代表的な制度ですが、その目的や機能には明確な違いがあります。 財産管理を始められるタイミング、財産をどれだけ自由に活用できるか、介護施設の契約なども任せられるか、裁判所の関与はあるか、費用はどの程度か、そして相続後の財産の行方はどうなるか。これら6つの視点から両制度を比較します。 任意後見人を含む成年後見制度との違いを正しく理解し、自身の希望に最も合致した選択をすることが重要です。
3-1. 財産管理を始められるタイミングはいつか
家族信託は、契約を締結すれば、本人の判断能力が十分にあるうちからでも財産管理を開始できます。 例えば、身体的な理由で財産管理が負担になった時点から子どもに任せるなど、柔軟なタイミング設定が可能です。一方、成年後見制度は、本人の判断能力が不十分になってから効力が発生します。 任意後見制度の場合、契約自体は元気なうちに結びますが、実際に任意後見人が活動を開始するのは、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した後です。 この開始時期の違いは、両制度の使い分けや併用を検討する上で重要なポイントとなります。
3-2. 財産の管理や処分における自由度の違い
財産管理の自由度において、両制度には大きな差があります。 家族信託では、信託契約で定めた範囲内であれば、受託者が自己の判断で柔軟に財産を管理・処分できます。 例えば、収益不動産の建て替えや相続税対策のための資産の組み換えなど、積極的な資産活用も契約に盛り込むことが可能です。これに対し、成年後見制度の目的はあくまで本人の財産保護です。 後見人は家庭裁判所の監督下にあり、不動産の売却といった重要な財産処分には裁判所の許可が必要となります。 そのため、資産を積極的に活用することは原則としてできず、財産を現状のまま維持することが基本となります。
3-3. 介護や入院手続きなどの身上監護は可能か
身上監護とは、介護サービスの契約、施設への入所手続き、病院への入院手続きなど、本人の生活や療養に関する法律行為を指します。 成年後見制度では、財産管理と並んで、この身上監護が後見人の重要な職務とされています。 後見人は本人の代理人として、これらの契約を法的な権限に基づいて行うことができます。一方で、家族信託はあくまで財産管理を目的とした制度であり、受託者の権限に身上監護は含まれません。 受託者が家族としてこれらの手続きを代行することは可能ですが、それは信託契約に基づく権限ではないため、正式な代理権が必要な場面では対応できない可能性があります。
3-4. 家族以外の監督者や裁判所の関与は必要か
成年後見制度では、家庭裁判所が後見人を選任し、その業務を監督します。 後見人は定期的に財産状況などを裁判所に報告する義務があり、公的なチェック機能が働きます。 任意後見においても、家庭裁判所が選任した任意後見監督人が、任意後見人の活動を監督します。一方、家族信託は当事者間の契約であるため、基本的に裁判所の直接的な関与はありません。 これにより、手続きが迅速に進むというメリットがあります。 ただし、受託者の権限濫用が心配な場合は、信託契約の中で任意に「信託監督人」などを設定し、家族内で監督機能を設けることも可能です。
3-5. 制度利用にかかる初期費用と継続費用の比較
家族信託の初期費用は、専門家へのコンサルティング料や公正証書作成費用、不動産があれば信託登記費用などがかかりますが、受託者を家族にする限り、その後の継続的な費用は原則として発生しません。 一方、成年後見制度では、申立て時の実費に加え、後見人に弁護士や司法書士などの専門家が選任された場合、本人が亡くなるまで月額数万円の報酬が継続的に発生します。任意後見制度でも、任意後見監督人への報酬が同様に発生するため、ランニングコストの面では家族信託の方が低く抑えられる傾向にあります。
3-6. 相続発生後の財産の取り扱いはどうなるか
成年後見制度は本人の死亡をもって終了し、後見人の任務は相続人に財産を引き継ぐまでです。 その後の財産の分け方は、遺言がなければ相続人全員での遺産分割協議によって決まります。 一方、家族信託は、契約によって本人が亡くなった後の財産の承継先まで指定できる点が大きな特徴です。「委託者が死亡したら、信託財産は長男に帰属させる」といった定め方をすれば、遺産分割協議を経ることなくスムーズな資産承継が可能です。 これにより、遺言と同様の機能を果たし、さらには二次相続以降の承継先を指定することもできます。
4. 家族信託を選ぶことのメリット
家族信託は成年後見制度と比較して特に財産管理の柔軟性において多くのメリットを持っています。 最大の魅力は本人の意思を反映させたオーダーメイドの財産管理や収益不動産の経営継続といった積極的な資産活用が可能な点です。また家庭裁判所の関与が原則として不要なため手続きをスピーディーに進められる利点もあります。 さらに信託契約に承継先を明記することで遺言の代わりとして機能し円滑な資産承継を実現できることも大きなメリットと言えます。
4-1. 希望通りの柔軟な財産管理や資産活用ができる
家族信託の最大の利点は、契約内容を自由に設計できることにあります。 これにより、財産所有者の意思に沿った柔軟な財産管理と資産活用が実現します。 例えば、認知症になった後も、所有するアパートの経営を子どもに継続させたり、相続税対策として計画的に資産を売却したりすることが可能です。成年後見制度では、本人の財産を保護することが最優先されるため、現状維持が基本となり、このような積極的な資産の活用や組み換えは原則として認められません。 判断能力が低下した後も財産を有効に活用し続けたいと考える人にとって、この自由度は非常に大きなメリットです。
4-2. 裁判所の関与がなくスピーディーに手続きを進められる
家族信託は、当事者間の私的な契約であるため、成年後見制度のように家庭裁判所への申立てや定期的な報告が原則として不要です。 これにより、財産管理に関する意思決定を迅速に行えます。 例えば、不動産市場の好機を捉えて売却したい場合でも、裁判所の許可を待つ必要がなく、受託者の判断で機動的に手続きを進めることが可能です。また、後見制度で求められる財産目録や収支報告書の作成といった煩雑な事務手続きから解放されるため、財産管理を担う家族の負担を大幅に軽減できる点も、実務上の大きなメリットと言えます。
4-3. 次世代への資産承継(遺言の代用)もスムーズに行える
家族信託は、信託契約の中で、委託者が亡くなった後の残余財産の帰属先を指定できます。 これは「遺言代用信託」とも呼ばれ、遺言書と同様の効力を持たせることが可能です。 これにより、相続発生時に遺産分割協議を行う必要がなく、契約で定められた相続人へスムーズに財産を引き継ぐことができます。 相続手続きの簡略化や、「争続」の防止に繋がります。さらに、自分が亡くなった後の二次相続まで指定できる「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」という仕組みを活用すれば、数世代にわたる資産承継の道筋をつけることも可能です。
5. 家族信託を利用する際のデメリット・注意点
多くのメリットを持つ家族信託ですが、万能な制度ではなく、いくつかのデメリットや注意点も存在します。 最も重要なのは、財産管理に特化しているため、成年後見制度が担う「身上監護」の機能は持たないことです。また、管理できるのは契約で定めた信託財産に限られ、税務上では損益通算ができないなどの特有の制約もあります。 これらの注意点を事前に把握し、必要に応じて他の制度との併用を検討することが、家族信託を効果的に活用する上で不可欠です。
5-1. 身上監護に関する契約(施設入所など)は行えない
家族信託は財産管理を目的とする制度であり、受託者の権限は信託された財産の管理処分に限定されます。 そのため、介護サービスの利用契約や施設への入退所手続き、入院手続きといった本人の生活や療養に関する法律行為、いわゆる「身上監護」に関する代理権は受託者にはありません。 受託者が家族としてこれらの手続きを行うことはできますが、それは信託契約に基づく法的な権限ではないのです。したがって、将来的に本人の代理人として身上監護に関する契約権限も正式に確保しておきたい場合は、後述する任意後見制度との併用などを検討する必要があります。
5-2. 信託契約で定めた以外の財産は管理できない
受託者が管理処分できるのは、信託契約書に記載し、登記や口座開設などの手続きを経て信託財産としたものに限られます。 契約時に信託財産に含めなかった預貯金や不動産、有価証券などは、引き続き本人が直接管理することになります。もし本人の判断能力が低下してしまうと、これらの信託していない財産は事実上凍結され、誰も動かせなくなるリスクが残ります。 この問題を避けるためには、契約時に将来の生活費なども見越して信託する財産の範囲を慎重に検討するか、信託外の財産のために成年後見制度の利用も視野に入れておくなどの対策が考えられます。
5-3. 損益通算ができないなど税務上の制約がある
家族信託を利用する上では、特有の税務ルールへの理解が不可欠です。 特に注意すべき点として、信託した不動産から生じた損失(赤字)は、他の所得(給与所得や他の不動産所得など)と損益通算ができないという制約があります。 これにより、節税効果が減少する可能性があります。また、通常、委託者と受益者が同一人物である「自益信託」では贈与税はかかりませんが、委託者と受益者が異なる「他益信託」の設計にすると、贈与税の課税対象となる場合があります。 信託契約を組成する際は、税務の専門家である税理士にも相談し、意図しない税負担が生じないよう慎重に進めることが重要です。
6. 成年後見制度を選ぶことのメリット
成年後見制度は、本人の保護を最優先に考えた制度であり、家族信託にはない強力なメリットを備えています。 最大の特長は、財産管理だけでなく、介護サービスの契約といった身上監護まで幅広くサポートできる点です。 また、本人が悪質な契約を結んでしまった場合にそれを取り消せる取消権は、消費者被害から本人を守る上で非常に有効です。さらに、家庭裁判所が後見人を監督するため、財産の不正利用を防ぎやすく、透明性の高い管理が期待できる点も大きな利点です。
6-1. 身上監護によって本人の生活や療養を幅広くサポートできる
成年後見制度の大きなメリットは、財産管理に加えて「身上監護」も後見人の職務に含まれる点です。 身上監護とは、本人の生活や療養に関する法的な手続きを代理して行うことを指し、具体的には介護サービスの利用契約、病院への入退院手続き、要介護認定の申請、老人ホームなどの施設への入退所契約などが該当します。判断能力が低下した本人に代わって、後見人がこれらの手続きを正式な代理人として行えるため、本人の生活環境を包括的にサポートすることが可能です。 これは財産管理に特化する家族信託にはない、成年後見制度の重要な機能です。
6-2. 本人が結んだ不利益な契約を取り消せる(取消権)
成年後見制度、特に法定後見のうち判断能力が著しく低い「後見」類型では、後見人に「取消権」という強力な権限が与えられます。 これは、判断能力が不十分な本人が、悪質な訪問販売や詐欺的な勧誘により、本人にとって不利益な契約を自ら結んでしまった場合に、後見人がその契約を後から取り消すことができる権利です。ただし、食料品の購入など日常生活に関する行為は対象外です。 この取消権によって、本人の財産を消費者被害から強力に守ることが可能になります。 家族信託の受託者や任意後見人にはこの権限はないため、法定後見制度ならではの大きなメリットです。
6-3. 裁判所や監督人が関与するため財産の不正利用を防ぎやすい
成年後見制度では、後見人の業務は家庭裁判所の監督下に置かれます。 後見人は、就任時に財産目録を、その後も定期的に収支状況を裁判所に報告する義務を負います。 これにより、財産の動きが公的にチェックされ、後見人による財産の使い込みや不適切な管理といった不正行為の抑止力となります。特に、親族間で財産を巡る意見の対立がある場合や、財産管理を任せる家族に不安がある場合には、裁判所という中立的な第三者が関与することで、公平で透明性の高い財産管理が実現します。 この公的な監督体制は、財産保全の確実性を高める上で重要な利点です。
7. 成年後見制度を利用する際のデメリット・注意点
本人保護の観点で有効な成年後見制度ですが、利用にあたってはいくつかのデメリットも理解しておく必要があります。 まず、財産管理は本人の利益のための現状維持が原則であり、家族信託のような積極的な資産活用や相続対策は行えません。また、弁護士などの専門家が後見人に就任した場合は、本人が亡くなるまで継続的に報酬が発生します。 さらに、法定後見では、必ずしも希望する親族が後見人に選ばれるとは限らないという点にも注意が必要です。
7-1. 財産は本人の利益のためにしか使えず、資産活用はできない
成年後見制度における財産管理の目的は、あくまで「本人の利益の保護」です。 支出は本人の生活費や医療・介護費などに限定され、財産を積極的に運用して増やすことや、家族のための支出、将来の相続税対策を目的とした生前贈与などは原則として認められません。自宅の売却など、本人の生活に大きな影響を与える財産処分を行う際には、その必要性を家庭裁判所に説明し、許可を得る必要があります。 このように、財産は厳格に保護・保全される反面、家族信観のような柔軟な資産活用や、家族全体の利益を考えた運用はできないという大きな制約があります。
7-2. 専門家への報酬が継続的に発生する場合がある
成年後見制度では、家庭裁判所の判断によって、弁護士や司法書士などの第三者の専門家が後見人に選任されるケースが少なくありません。 専門家が後見人に就任すると、本人の財産の中から報酬を支払う必要があります。 報酬額は管理財産額に応じて裁判所が決定し、一般的に月額2万円から6万円程度が目安となります。この報酬は、制度が終了する、つまり本人が亡くなるまで継続して発生するため、長期間にわたるとその総額は相当な負担になる可能性があります。 任意後見制度においても、任意後見監督人への報酬が同様にかかることを考慮しておく必要があります。
7-3. 親族が後見人に選ばれるとは限らない
法定後見制度の申立ての際、後見人の候補者として特定の親族を希望することはできます。 しかし、最終的に誰を後見人に選任するかを決定するのは家庭裁判所です。本人の財産額が大きい、親族間に意見の対立がある、候補者自身に経済的な問題があるといった場合には、公平性や専門性の観点から、弁護士や司法書士などの中立的な専門家が選任される可能性が高くなります。 「子どもの一人に財産管理を任せたい」という家族の希望があっても、それが必ずしも実現するとは限らない点は、制度を利用する上で理解しておくべき重要なポイントです。
8. あなたに最適なのはどっち?状況に応じた選び方のポイント
家族信託と成年後見制度、どちらが最適かは、その人の財産状況、家族構成、そして何を最も重視するかによって異なります。 例えば、不動産経営などの資産活用を続けたいのか、それとも本人の生活全般の保護を最優先したいのかで選択は変わってきます。 ここでは、具体的なケースを想定し、「家族信託がおすすめな人」と「成年後見制度がおすすめな人」のそれぞれの特徴を解説します。ご自身の状況と照らし合わせながら、どちらの制度がよりニーズに合っているかを判断するための参考にしてください。
8-1. 家族信託の利用がおすすめな人
家族信託は、資産の柔軟な管理や活用、そして円滑な資産承継を重視する方に適しています。 具体的には、アパートなどの収益不動産や自社株を所有しており、判断能力が低下した後もその経営や事業を継続させたい場合が挙げられます。また、遺言の代わりとして、相続後の財産の行き先を具体的に定めておきたい場合にも有効です。 裁判所の関与を受けずに、信頼できる家族の裁量で、費用を抑えつつスピーディーに財産管理を進めたいと考える方にとって、家族信託は非常に有力な選択肢となるでしょう。
不動産経営など積極的な資産運用を続けたい場合
アパートや駐車場などの収益不動産を所有している場合、所有者の判断能力が低下すると資産が凍結され、大規模修繕や新規の賃貸借契約、売却といった経営上の重要な判断ができなくなります。 成年後見制度では財産の現状維持が原則のため、これらの積極的な活用は困難です。しかし、家族信託を利用すれば、あらかじめ信頼できる子どもなどを受託者にしておくことで、本人の判断能力低下後も、受託者が賃貸経営を継続し、必要に応じて物件の売却や建て替えを機動的に行えます。 これにより、資産価値を維持・向上させながら、安定した収益を確保し続けることが可能になります。
相続対策や事業承継もあわせて行いたい場合
家族信託は、認知症対策だけでなく、円滑な相続や事業承継を実現するためのツールとしても極めて有効です。 信託契約において、本人が亡くなった後の財産の承継先をあらかじめ指定しておくことで、遺言と同様の効果を持たせ、相続人間のトラブルを未然に防ぎます。特に、会社のオーナー経営者にとっては、自社株を信託することで、自身の判断能力低下後も後継者である受託者が議決権を行使し、安定した会社経営を続けられます。 これにより、遺産分割による株式の散逸を防ぎ、スムーズな事業承継の道筋をつけることが可能になります。
費用を抑えつつ家族だけで財産管理を完結させたい場合
成年後見制度で専門家が後見人に就任すると、本人が亡くなるまで継続的に報酬が発生し、長期的な費用負担が大きくなる可能性があります。 一方、家族信託は、契約作成時に専門家へのコンサルティング料や登記費用などの初期費用がかかりますが、受託者を家族にすれば、その後のランニングコストは原則としてかかりません。また、家庭裁判所への定期的な報告義務もないため、事務的な負担も軽減されます。 外部の専門家や裁判所の関与を最小限にし、信頼できる家族の範囲内で、費用を抑えながら財産管理を行いたいと考える場合に、家族信託は適した制度です。
8-2. 成年後見制度の利用がおすすめな人
成年後見制度は、本人の保護を最優先事項と考える場合に適しています。 例えば、財産管理を安心して任せられる親族が身近にいない場合、専門家を後見人とすることで適正な管理が期待できます。また、財産管理だけでなく、介護サービスの契約や施設入所の手続きといった身上監護もあわせて任せたい場合、成年後見制度は包括的なサポートを提供します。 さらに、親族間で財産を巡る対立があるケースでは、家庭裁判所という中立的な第三者が関与することで、公平な財産管理を実現し、トラブルの深刻化を防ぐ効果があります。
財産管理を任せられる親族がいない場合
家族信託は、財産を託す「受託者」として、信頼できる親族の存在が前提となります。 もし、身近に財産管理を安心して任せられる親族がいない、いわゆる「おひとりさま」や、親族と疎遠な場合には、家族信託の利用は困難です。このような状況では、成年後見制度が有効な選択肢となります。 家庭裁判所に申し立てることで、本人の状況に応じて、弁護士や司法書士、社会福祉士といった法律や福祉の専門家を後見人として選任してもらえます。 中立的な立場の専門家が後見人となることで、客観的かつ適正な財産管理が期待でき、安心して将来を任せることが可能になります。
施設入所や介護サービスの契約など身上監護も任せたい場合
判断能力が低下すると、財産管理だけでなく、自身の生活環境を整えるための契約行為も一人では困難になります。 具体的には、介護保険サービスを利用するための事業者との契約、老人ホームなどの施設へ入所するための契約、入院時の手続きや医療行為への同意などが挙げられます。これらは「身上監護」と呼ばれ、財産管理に特化している家族信託の権限には含まれていません。 成年後見制度では、後見人が本人の代理人としてこれらの法律行為を正式に行えるため、財産面だけでなく、生活や療養面も含めた包括的なサポートを希望する場合に適しています。
親族間の対立があり、中立な第三者の関与が必要な場合
親族間の関係が良好でなく、本人の財産管理の方針について意見が分かれている場合、特定の親族を受託者とする家族信託を組成すると、かえって親族間の対立を深めてしまう恐れがあります。 このような状況では、家庭裁判所という公的で中立な機関が関与する成年後見制度の利用が望ましいです。家庭裁判所は、親族間の対立状況なども含めて総合的に判断し、最も適任と思われる人物を後見人に選任します。 多くの場合、利害関係のない弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることで、公平性が保たれ、不要な争いを避けることができます。
9. 家族信託と任意後見制度の併用でそれぞれのデメリットを補う方法
家族信託と任意後見制度は、それぞれ一長一短がありますが、この2つの制度を組み合わせることで、お互いの弱点を補完し、より万全な認知症対策を構築することが可能です。 具体的には、家族信託によって柔軟な財産管理や資産活用を実現しつつ、家族信託ではカバーできない介護サービスの契約などの「身上監護」については任意後見制度で対応するという役割分担をします。この併用により、資産の有効活用と本人の生活全般にわたるサポートの両立を目指せます。
9-1. 身上監護と柔軟な財産管理を両立させるための活用術
家族信託と任意後見制度を効果的に併用するには、本人の判断能力が十分なうちに、両方の契約を同時に結んでおくことが有効です。 まず、財産の管理・活用・承継については家族信託契約を締結し、信頼できる家族を受託者に指定します。 これと並行して、身上監護(介護契約や施設入所手続きなど)の代理権を与えるため、同じ家族などを任意後見受任者とする任意後見契約も公正証書で作成します。これにより、判断能力が低下する前から家族信託でスムーズな財産管理を始めつつ、実際に判断能力が衰えた際には任意後見をスタートさせ、身上監護の面でも切れ目のないサポート体制を築けます。
10. まとめ
家族信託と成年後見制度は、どちらも判断能力の低下に備えるための重要な制度ですが、その目的と機能には大きな違いがあります。 家族信託は、本人の意思に基づき、柔軟な財産管理や資産活用、円滑な資産承継を実現することに優れています。 一方、成年後見制度は、家庭裁判所の監督のもとで本人の財産を厳格に保護し、身上監護を含めた包括的なサポートを行うことを目的としています。 どちらが最適かは、資産状況、家族関係、そして本人が何を最も重視するかによって異なります。また、両制度を併用することで、それぞれのデメリットを補い合い、より強固な対策を講じることも可能です。 自身の状況に合った制度を選択するためには、それぞれの違いを正しく理解し、必要に応じて専門家に相談することが不可欠です。
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