不動産相続の税金はいくら?計算方法と税金対策をわかりやすく解説
不動産相続の税金はいくら?計算方法と税金対策をわかりやすく解説
不動産の相続では、高額になりがちな不動産の相続税について正しく理解しておくことがとても重要です。「不動産を相続したら税金はいくらかかるのか?」という疑問を解消するには、まず相続税の計算方法を押さえる必要があります。相続税は、不動産を含むすべての遺産の総額から基礎控除額を差し引いた金額に対して課税される仕組みです。この記事では、相続税の基本的な計算手順から、不動産の評価額の出し方、利用できる特例や控除、さらに生前から行える節税対策まで、
順を追って具体的に解説します。
- 1. 不動産を相続したときにかかる税金は2種類
- 1-1. 相続財産全体にかかる「相続税」
- 1-2. 不動産の名義変更に必要な「登録免許税」
- 2. 相続税がかからないケースとは?基礎控除額の計算式
- 3. 7ステップでわかる!不動産相続税の計算方法
- 3-1. ステップ1:誰が相続人になるかを確認する
- 3-2. ステップ2:相続する財産の総額を把握する
- 3-3. ステップ3:不動産の相続税評価額を算出する
- 3-4. ステップ4:課税対象となる遺産総額を計算する
- 3-5. ステップ5:法定相続分で仮の相続税総額を求める
- 3-6. ステップ6:実際の相続割合で各人の税額を按分する
- 3-7. ステップ7:各人の税額控除を適用し最終納税額を確定する
- 4. 【具体例】不動産相続税のシミュレーション
- 5. 不動産相続の税負担を軽くする6つの特例・控除
- 5-1. 自宅の土地評価額が最大80%減額される「小規模宅地等の特例」
- 5-2. 配偶者なら最低1億6,000万円まで非課税になる「配偶者の税額軽減」
- 5-3. 18歳未満の相続人が使える「未成年者控除」
- 5-4. 障害を持つ相続人が対象の「障害者控除」
- 5-5. 10年以内に続けて相続が発生した場合の「相次相続控除」
- 5-6. 生前に贈与を受けていた場合に適用される「贈与税額控除」
- 6. 生前にできる不動産の相続税対策
- 6-1. 生前贈与で相続財産を減らす
- 6-2. 養子縁組で法定相続人の数を増やす
- 6-3. 賃貸物件として活用し不動産の評価額を下げる
- 7. 不動産相続で知っておきたい3つの注意点
- 7-1. 相続税の申告と納税は10ヶ月以内に行う
- 7-2. 不動産の名義変更(相続登記)は3年以内に申請が必要
- 7-3. トラブルを避けるため不動産の共有名義は慎重に検討する
- 8. 相続税が払えないときの対処法
- 8-1. 税務署に分割払いを相談する「延納」
- 8-2. 不動産そのもので納税する「物納」
- 8-3. 相続した不動産を売却して納税資金を確保する
- 8-4. 金融機関から融資を受けて納税する
- 9. まとめ
1. 不動産を相続したときにかかる税金は2種類
不動産を相続した場合、主に「相続税」と「登録免許税」という2種類の税金が関わってきます。相続税は、遺産総額が基礎控除額を超えたときに課される国税です。
一方、登録免許税は、不動産の名義を被相続人から相続人へ変更する「相続登記」を行う際に必要になる税金です。なお、一般に不動産を取得したときに課税される不動産取得税は、相続による取得であれば原則としてかかりません。ただし、相続後にその不動産を所有し続ける限り、毎年固定資産税・都市計画税(住民税)がかかる点には注意が必要です。
1-1. 相続財産全体にかかる「相続税」
相続税は、個々の財産ごとに直接かかる税金ではなく、被相続人が残した遺産の総額に対して課税される国税です。遺産には、不動産や預貯金、有価証券といったプラスの財産はもちろん、借入金や未払いの税金などのマイナスの財産も含まれます。これらすべてを金額に換算し、プラスの財産からマイナスの財産や葬式費用を差し引いたものが、相続税の計算の土台となる課税価格の基礎です。この遺産総額が、法律で定められた基礎控除額を超える場合にのみ、相続税の申告と納税義務が発生します。
遺贈によって財産を取得した場合も、相続税の対象となります。
1-2. 不動産の名義変更に必要な「登録免許税」
登録免許税は、不動産の所有権を公的に証明するための登記手続きを行う際にかかる税金です。不動産を相続した場合、被相続人から相続人へ所有権を移す「相続登記」を法務局で行う必要があり、このときに登録免許税を納付します。税額は、不動産の固定資産税評価額 × 0.4%で算出されます。
たとえば固定資産税評価額が3,000万円の不動産であれば、登録免許税は12万円となります。相続登記の申請は法務局で行い、税金は収入印紙で納付するのが一般的です。
2. 相続税がかからないケースとは?基礎控除額の計算式
相続税は、すべての相続で必ず発生するわけではありません。遺産総額が法律で定められた「基礎控除額」を下回る場合には、相続税はかからず、税務署への申告も不要です。基礎控除額は、次の計算式で求めます。3,000万円 +(600万円 × 法定相続人の数)たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人の合計3人の場合、基礎控除額は
3,000万円 +(600万円 × 3人)= 4,800万円となります。このケースでは、相続財産の総額が4,800万円以下であれば、相続税は一切かからず、申告も必要ありません。
3. 7ステップでわかる!不動産相続税の計算方法
不動産の相続税の計算は、一見すると複雑に感じられますが、手順に沿って一つずつ進めていけば全体の流れをつかむことができます。相続税の計算は、まず相続人を確定し、次にすべての相続財産を評価して総額を算出することから始まります。そのうえで基礎控除額を差し引き、法定相続分で仮の税額を計算し、実際の取得割合で按分し、
最後に控除を適用して納税額を確定させます。ここでは、不動産の相続税の計算方法を7つのステップに分けて解説します。
3-1. ステップ1:誰が相続人になるかを確認する
相続税計算の最初のステップは、誰が法的に財産を相続する権利を持つ「法定相続人」であるかを確定することです。民法では相続人になれる人の範囲と順位が決められており、被相続人の配偶者は常に相続人となります。配偶者以外の相続人には順位があり、第1順位は子、第2順位は親や祖父母などの直系尊属、第3順位は兄弟姉妹です。上位の順位の相続人がいる場合、下位の順位の人は相続人にはなれません。また、遺言書がある場合にはその内容が優先されることもあるため、まずは遺言書の有無を確認し、
戸籍謄本を取り寄せて相続人を正確に把握します。
3-2. ステップ2:相続する財産の総額を把握する
次に、被相続人が所有していたすべての財産をリストアップし、その総額を把握します。財産には、土地・建物といった不動産、預貯金、株式などの有価証券、自動車、貴金属など、
金銭的価値のあるものはすべて含まれます。これらがプラスの財産です。一方で、借入金や未払いの税金などのマイナスの財産も相続の対象となるため、これらも正確に洗い出す必要があります。また、被相続人の死亡によって支払われる生命保険金や死亡退職金は
「みなし相続財産」として遺産総額に加算されますが、それぞれに一定の非課税枠が設けられています。
3-3. ステップ3:不動産の相続税評価額を算出する
不動産の相続税評価額は、実際の売買価格(時価)ではなく、相続税法で定められた特別な評価方法を用いて算出します。
不動産が相続財産の大部分を占めることも多いため、ここでの評価が相続税額に大きく影響します。土地と建物では評価方法が異なり、それぞれルールに従って計算します。
評価の基準となる情報の一つに、毎年市区町村から送られてくる固定資産税の納税通知書があります。とくに建物の評価額を算出する際の基礎となるため、大切に保管しておきましょう。
土地は「路線価方式」または「倍率方式」で評価する
土地の相続税評価額は、その土地が所在する地域によって「路線価方式」または「倍率方式」のいずれかで算出します。路線価方式は、主に市街地にある土地に用いられる方法で、国税庁が道路ごとに定めた1㎡あたりの価格(路線価)に土地の面積を乗じて評価額を求めます。一方、路線価が定められていない郊外の土地などは倍率方式を用います。
これは、土地の固定資産税評価額に国税庁が地域ごとに定める倍率を乗じて評価額を算出する方法です。路線価や評価倍率は国税庁のウェブサイトで確認できます。
建物は「固定資産税評価額」で評価する
建物の相続税評価額は、土地の評価ほど複雑ではなく、原則として固定資産税評価額がそのまま相続税評価額となります。固定資産税評価額は、市区町村が3年ごとに見直しており、毎年送付される固定資産税の納税通知書に添付されている課税明細書で確認できます。手元にない場合は、市区町村役場で固定資産評価証明書を取得すれば金額を把握できます。賃貸アパートなど、他人に貸している建物については、相続税評価額が一定割合減額される措置もあります。
これは相続税の税率とは別の概念なので混同しないようにしましょう。
マンションの評価方法も確認しよう
マンションを相続した場合は、土地(敷地権)と建物(専有部分)を別々に評価し、その合計が相続税評価額となります。建物部分の評価額は、一戸建てと同様に、専有部分の固定資産税評価額がそのまま用いられます。土地部分は、まずマンション敷地全体の評価額(路線価方式または倍率方式)を算出し、
その評価額に登記簿謄本に記載された各戸の敷地権割合を乗じて求めます。とくにタワーマンションでは、市場価格と相続税評価額との乖離が大きくなることがあり、新たな評価方法が導入されている点にも注意が必要です。
3-4. ステップ4:課税対象となる遺産総額を計算する
相続財産の総額が確定したら、次に基礎控除額を差し引きます。これにより、実際に相続税がかかる金額である課税遺産総額が明らかになります。計算式は、課税遺産総額 =(ステップ2で把握した財産総額) −(基礎控除額:3,000万円+600万円×法定相続人の数) です。計算結果がゼロまたはマイナスであれば、相続税はかからず申告も不要です。
一方、プラスの金額が残る場合は、その金額に対して相続税が課税されます。この段階での金額は、各種特例や控除を適用する前のものであり、ここから節税対策を講じることで最終的な納税額が変わる可能性があります。
3-5. ステップ5:法定相続分で仮の相続税総額を求める
課税遺産総額が求まったら、次に相続税の総額を計算します。この計算は、実際の遺産分割の内容に関係なく、まず課税遺産総額を民法で定められた法定相続分で各相続人が取得したと仮定して行います。たとえば、相続人が配偶者と子ども2人の場合、配偶者が2分の1、子どもがそれぞれ4分の1ずつ取得したとみなします。
そのうえで、それぞれの取得金額に相続税の速算表に記載された税率をかけ、控除額を差し引いて各人の仮の税額を算出します。最後に、これらの仮の税額を合計したものが「相続税の総額」です。
3-6. ステップ6:実際の相続割合で各人の税額を按分する
ステップ5で求めた相続税の総額を、今度は実際の遺産の取得割合に応じて各相続人に割り振ります。遺言書がある場合はその内容に、ない場合は遺産分割協議で決まった割合に従って按分します。たとえば、相続税の総額が1,000万円で、Aさんが遺産の60%、Bさんが40%を取得する場合、Aさんの負担額は600万円、Bさんは400万円となります。このステップにより、各相続人が基本的に負担すべき相続税額が求められますが、これが最終的な納税額ではありません。
3-7. ステップ7:各人の税額控除を適用し最終納税額を確定する
最後に、ステップ6で算出した各相続人の税額から、個々の事情に応じて適用できる税額控除を差し引きます。これにより、実際に税務署へ納付する最終的な納税額が確定します。税額控除には、配偶者が利用できる「配偶者の税額軽減」や、未成年者や障害者が相続人である場合の「未成年者控除」・「障害者控除」など、さまざまな制度があります。どの控除が使えるかはケースによって異なるため、要件をよく確認することが大切です。詳細は国税庁のホームページを参照するか、税理士などの専門家に相談すると安心です。
4. 【具体例】不動産相続税のシミュレーション
これまでの計算ステップを踏まえ、具体的なモデルケースで相続税がどのくらいになるのかをシミュレーションしてみましょう。例えば、相続財産が土地6,000万円・建物2,000万円・預金2,000万円の合計1億円で、法定相続人が配偶者と子ども2人のケースを考えます。この場合、基礎控除額は4,800万円なので、課税遺産総額は5,200万円となります。
これを法定相続分で按分し相続税の総額を計算したうえで、実際の取得割合に応じて各人の税額を算出します。多くのケースでは、配偶者については「配偶者の税額軽減」を適用することで、納税額がゼロになる可能性が高いです。具体的な数値の計算や申告については、税務署や税理士などの専門家に相談しながら進めるとよいでしょう。
5. 不動産相続の税負担を軽くする6つの特例・控除
相続税の計算では、納税者の負担を軽減するためにさまざまな特例や控除が用意されています。これらを適切に活用することで、納税額を大きく抑えられる場合があります。とくに不動産相続では、評価額そのものを減らせる「小規模宅地等の特例」や、配偶者の税負担を大きく軽減する「配偶者の税額軽減」が非常に重要です。ここでは、不動産を相続する際に知っておきたい代表的な6つの特例・控除について、その概要と効果を紹介します。いずれも適用には要件があるため、自分が該当するかどうかを必ず確認しましょう。
5-1. 自宅の土地評価額が最大80%減額される「小規模宅地等の特例」
小規模宅地等の特例は、被相続人が居住用や事業用として利用していた土地を相続した場合に、その土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。例えば、評価額5,000万円の自宅土地にこの特例が適用されれば、評価額は1,000万円まで下がり、相続税額を大幅に圧縮できます。節税効果が非常に大きい反面、適用には相続人の続柄や相続後の土地の利用方法など、
満たすべき条件が細かく定められています。適用の可否判断は難しいことが多いため、税理士など専門家への相談をおすすめします。
5-2. 配偶者なら最低1億6,000万円まで非課税になる「配偶者の税額軽減」
配偶者の税額軽減は、被相続人の配偶者が遺産を相続した場合に利用できる、非常に強力な控除制度です。この制度により、配偶者が取得した財産額が「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までであれば、相続税がかかりません。多くのケースで、配偶者の相続税負担はゼロになります。ただし、この制度を使うには相続税の申告期限内に申告書を提出することが必要です。また一次相続でこの制度を最大限活用すると、次の二次相続(配偶者が亡くなったとき)の際に、
子どもの税負担が重くなる可能性もあるため、将来の不動産売却なども含めた総合的な検討が欠かせません。
5-3. 18歳未満の相続人が使える「未成年者控除」
相続人の中に18歳未満の未成年者がいる場合、相続税額から一定額を差し引ける未成年者控除が利用できます。
未成年者の今後の生活や教育にかかる負担を考慮した制度です。控除額は、未成年者が満18歳になるまでの年数1年につき10万円として計算します。
例えば、15歳の相続人であれば、18歳まで3年あるため、3年 × 10万円 = 30万円が控除額となります。控除額が本人の相続税額を上回る場合は、余った分を扶養義務者の相続税額から差し引くことも可能です。
5-4. 障害を持つ相続人が対象の「障害者控除」
相続人が法律上の障害者に該当する場合、障害者控除として相続税額から一定額を控除できます。
障害を持つ相続人の生活を支援するための制度です。控除額は、その相続人が満85歳になるまでの年数1年につき10万円(特別障害者の場合は20万円)を乗じて計算します。例えば、60歳の一般障害者の方が相続人であれば、85歳まで25年あるため、25年 × 10万円 = 250万円が控除額となります。未成年者控除と同様、控除額が本人の相続税額を超える場合は、その超過分を扶養義務者の税額から差し引くことができます。
5-5. 10年以内に続けて相続が発生した場合の「相次相続控除」
相次相続控除は、短期間のうちに連続して相続が発生し、同じ財産に何度も相続税が課される負担を軽減するための制度です。具体的には、今回の相続(二次相続)が始まる前10年以内に、被相続人が前の相続(一次相続)で財産を取得し、相続税を納めていた場合に適用されます。一次相続で納めた相続税額のうち、経過年数に応じて計算された一定額を、二次相続の相続税額から差し引くことができます。経過年数が短いほど控除額は大きく、1年経過するごとに10%ずつ減額される仕組みです。
5-6. 生前に贈与を受けていた場合に適用される「贈与税額控除」
相続開始前3年以内(2024年以降は段階的に7年以内に延長予定)に被相続人から贈与を受けた財産は、相続税の課税対象として遺産総額に加算されます。その際、贈与を受けた年に贈与税を納付していた場合には、その贈与税額を今回の相続税額から差し引くことができます。これが贈与税額控除です。同じ財産に対して贈与税と相続税が二重に課されないようにするための調整措置であり、この控除を受けるには、相続税の申告書に贈与財産と納付済み贈与税額の明細を記載する必要があります。
6. 生前にできる不動産の相続税対策
相続税対策は、相続が発生してからではできることが限られてしまいます。将来の税負担を軽くするには、元気なうちから計画的に備えておくことが大切です。とくに評価額が大きくなりがちな不動産については、生前からの対策がより大きな効果を発揮します。相続財産そのものを減らす生前贈与や、基礎控除額を増やすための養子縁組、不動産の評価額を下げる賃貸活用など、さまざまな方法があります。ここでは代表的な3つの生前対策について、その仕組みと注意点を解説します。
6-1. 生前贈与で相続財産を減らす
生前贈与は、将来の相続財産をあらかじめ減らしておくための有効な手段です。贈与税には年間110万円までの基礎控除(暦年贈与)があり、この範囲内での贈与であれば贈与税はかかりません。毎年コツコツと子どもや孫に現金を贈与していくことで、相続財産を着実に減らすことができます。ただし、不動産そのものを贈与すると高額な贈与税や不動産取得税がかかることもあり、慎重な検討が必要です。また、相続開始前一定期間内の贈与は相続財産に加算される「生前贈与加算」のルールも理解しておきましょう。
6-2. 養子縁組で法定相続人の数を増やす
養子縁組を行うと、法律上の子ども、つまり法定相続人が増えます。法定相続人の数が増えると、相続税の基礎控除額「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」が増えるため、
その分だけ課税される金額を抑えることができます。例えば、養子が1人増えれば、基礎控除額は600万円増加します。また、生命保険金や死亡退職金の非課税枠も「500万円×法定相続人の数」で計算されるため、養子縁組によってこれらの非課税枠も拡大します。ただし、相続税の計算において法定相続人の数に含められる養子の数には制限があり、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までと定められています。
6-3. 賃貸物件として活用し不動産の評価額を下げる
更地の土地や自宅などの不動産を賃貸物件として活用することで、相続税評価額を下げられる場合があります。土地にアパートやマンションを建てて貸し出すと、その土地は「貸家建付地」として評価され、更地と比べて評価額が低くなります。建物も、自分で住むより他人に貸している「貸家」の方が評価額が下がる仕組みです。節税効果が期待できる一方で、建設には多額の借入が必要となり、空室リスクや家賃下落リスクも伴います。長期的な収支計画を立て、慎重に検討することが重要です。
7. 不動産相続で知っておきたい3つの注意点
不動産の相続手続きでは、税金の計算や納付以外にも注意しておきたいポイントがいくつかあります。とくに、手続きには厳格な期限が設けられているものが多く、これを守らないとペナルティを受けることがあります。また、不動産は現金のように簡単に分けられないため、相続人間のトラブルにつながりやすいという側面もあります。ここでは、相続税の申告期限、名義変更(相続登記)の義務化、不動産の共有名義のリスクという、特に押さえておきたい3つの注意点を解説します。
7-1. 相続税の申告と納税は10ヶ月以内に行う
相続税の申告と納税には明確な期限があり、「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」と定められています。一見長く感じられますが、この期間内に戸籍収集による相続人の確定、全財産の調査と評価、遺産分割協議、申告書の作成など、多くの手続きを終えなければならないため、実際には時間に余裕がないことも少なくありません。期限に間に合わないと、本来使えるはずだった特例が適用できなくなったり、無申告加算税や延滞税といったペナルティが課されたりするおそれがあります。相続が発生したら、できるだけ早めに手続きをスタートすることが重要です。
7-2. 不動産の名義変更(相続登記)は3年以内に申請が必要
これまで任意とされていた不動産の相続登記は、2024年4月1日から義務化されました。これにより、不動産を相続したことを知った日から3年以内に、法務局で所有権移転の登記申請を行う必要があります。この制度は、所有者不明土地の増加という社会問題に対応するために導入されたものです。正当な理由なく相続登記を怠った場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。相続登記は、不動産の権利関係を明確にし、将来の売却や活用をスムーズに進めるためにも欠かせない手続きですので、忘れずに行いましょう。
7-3. トラブルを避けるため不動産の共有名義は慎重に検討する
不動産は現金のように簡単に分割できないため、遺産分割の結果として複数の相続人が共同で所有する「共有名義」とするケースも少なくありません。しかし共有名義は、将来的なトラブルの火種となりやすいため注意が必要です。不動産を売却したり、賃貸に出したり、リフォームしたりする際には、共有者全員の同意が必要となり、ひとりでも反対すると手続きが進まないことがあります。また、共有者の一人が亡くなると、その持分がさらにその人の相続人に引き継がれ、権利関係がどんどん複雑化してしまいます。
可能であれば、代償分割などの方法を活用し、できるだけ単独名義で相続することを検討しましょう。
8. 相続税が払えないときの対処法
相続財産の大部分が不動産で、手元の現金が少ない場合、相続税の納税資金が足りないという問題が起こりやすくなります。相続税は原則として現金一括納付が原則ですが、それが難しい人のためにいくつかの救済制度が用意されています。代表的なものが、税務署に相談して分割払いとする「延納」や、不動産などの財産そのもので納税する「物納」です。そのほか、相続した不動産を売却して現金化したり、金融機関から融資を受けたりする方法も考えられます。ここでは、それぞれの対処法の概要と注意点を見ていきます。
8-1. 税務署に分割払いを相談する「延納」
延納とは、相続税を期限までに現金一括で納めることが難しい場合に、税務署長の許可を得て年賦(分割払い)で納付できる制度です。延納を利用するには、相続税額が10万円を超えていること、一括納付が困難な事情があること、さらに延納税額に見合う担保を提供できることなど、いくつかの要件を満たす必要があります。延納が認められた場合でも、期間中は利子税を併せて納付する必要があります。あくまで納税時期を先延ばしにする制度であり、総支払額が増える点には注意しましょう。
8-2. 不動産そのもので納税する「物納」
物納は、延納を利用してもなお現金での納税が困難な場合に限り、最終手段として認められる制度です。
文字どおり、現金ではなく不動産や株式などの財産そのものを国に納めることで納税します。ただし物納の要件は非常に厳しく、物納できる財産の種類や順位も法律で定められています。
不動産は第一順位の財産ですが、境界が不明確な土地や抵当権がついている物件など、国が管理・処分するのに適さないと判断されたものは物納が認められません。そのため、物納を検討する場合は必ず事前に税理士や税務署に相談し、適用可能性を確認することが重要です。
8-3. 相続した不動産を売却して納税資金を確保する
相続税が払えないときのもっとも現実的で一般的な対処法が、相続した不動産を売却し、その代金で納税資金を用意する方法です。ただし、不動産はすぐに現金化できるとは限らないため、相続が発生したら早めに売却の検討を始め、査定や売却活動のスケジュールを組んで納税期限に間に合うように準備する必要があります。なお、相続開始の翌日から3年10ヶ月以内に相続不動産を売却した場合は、「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例(取得費加算の特例)」を利用できることがあります。これは、納付した相続税額の一部を不動産の取得費に加算できる制度で、売却時の譲渡所得税の負担を軽減する効果があります。
8-4. 金融機関から融資を受けて納税する
相続した不動産を手放したくない場合は、金融機関から融資を受けて納税資金を調達する方法もあります。一部の銀行や信託銀行では、相続税の納税を目的とした「相続税ローン」などの商品を取り扱っています。不動産を担保に融資を受けるのが一般的な形です。不動産を維持できるというメリットがある一方で、当然ながら金利負担が発生し、長期的な返済計画が必要になります。融資には審査もあるため、希望どおりの金額を借りられるとは限らない点も考慮しましょう。
9. まとめ
不動産の相続税は、財産評価や税額計算、各種特例の適用など、専門的な知識が求められる複雑な手続きです。まずは遺産総額と基礎控除額を比較し、相続税がかかるかどうかを確認します。課税対象となる場合は、本記事で紹介した7つのステップに沿って税額を計算し、さらに「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」などの制度を上手に活用して税負担を抑えていくことが大切です。申告・納税期限は10ヶ月と短く、相続登記にも3年以内という期限があります。相続が発生したら、できるだけ早めに状況を整理し、必要に応じて税理士や司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。
根拠法令・資料
- そのお困りごと、ハタスに相談してみませんか?
- 電話で相談する 0566-23-5749
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