事業承継とは?事業継承との違いや種類、マッチング手法まで解説
事業承継とは?事業継承との違いや種類、マッチング手法まで解説
事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐ一連のプロセスを指します。
後継者不足が社会問題化する中で、その方法や種類について、わかりやすく理解しておくことが求められます。
この記事では、よく似た言葉である事業継承との違いから、具体的な承継の種類、後継者探しのためのマッチング手法まで、事業承継とは何かを網羅的に解説します。
- 事業承継の基本的な意味を理解しよう
- 事業承継とは会社の経営を次世代に引き継ぐこと
- よく似た言葉「事業継承」との明確な違い
- 事業承継で後継者に引き継がれる3つの大切な要素
- 会社の所有権や経営の舵取り役となる「経営権」
- 土地や設備など金銭的価値のある「物的資産」
- 独自の技術やノウハウなど目に見えない「知的資産」
- 【承継先別】事業承継の代表的な3つのパターン
- 子どもや親族に会社を託す「親族内承継」のメリットとデメリット
- 役員や従業員に経営を任せる「社内承継」のメリットとデメリット
- M&Aで社外の第三者に引き継ぐ「第三者承継」のメリットとデメリット
- 事業承継を円滑に進めるための5つのステップ
- ステップ1:会社の現状を把握し承継の必要性を認識する
- ステップ2:後継者候補を選び育成計画を具体化する
- ステップ3:中長期的な視点で事業承継計画書を作成する
- ステップ4:計画に沿って株式や資産の移転を実行する
- ステップ5:承継後の新体制を社内外に周知し経営を安定させる
- 多くの中小企業が抱える事業承継の現状と課題
- 後継者不在でやむなく休業や廃業を選ぶ企業が増加
- 事業承継の際に発生する可能性のある税金の種類
- 個人から資産を無償で受け継ぐ場合の「相続税」や「贈与税」
- 株式の売却で得た利益にかかる「所得税」や「住民税」
- 事業承継の金銭的負担を軽くする公的支援制度
- 税金の支払いが猶予・免除される「事業承継税制」の活用
- 専門家への相談費用などを補助する「事業承継・引継ぎ補助金」
- 後継者探しに役立つ事業承継マッチングサービス
- 後継者を探す経営者と起業家を結ぶオンラインプラットフォーム
- 第三者承継の選択肢を広げるマッチングサービスの利点
- 会社の未来のために事業承継を成功させる3つのポイント
- 5~10年後を見据えて早めに準備を開始する
- 後継者や関係者と時間をかけて対話し理解を得る
- 税理士や専門機関など信頼できる相談先を見つける
- まとめ
事業承継の基本的な意味を理解しよう
事業承継は、会社の経営権や資産を次の世代に引き継ぐことを指す経営用語です。
単に会社の代表者が交代するだけでなく、創業から培ってきた経営理念や知的資産といった目に見えない価値も含めて、後継者に引き継ぐ一連の活動の総称が、この言葉の基本的な意味に含まれています。
事業承継とは会社の経営を次世代に引き継ぐこと
事業承継は、会社の経営権と資産を後継者へ引き継ぎ、事業の継続と発展を目指す活動です。
特に日本の企業の大半を占める非上場企業、中でも同族経営の株式会社において、これは避けて通れない重要な経営課題となります。
引き継ぐ対象は、株式や設備といった有形の資産に限りません。
創業以来培われてきた経営理念や独自の技術、取引先との信頼関係といった無形の価値も含まれます。
したがって、事業承継は単なる財産の移転ではなく、会社の魂ともいえる部分を次世代へ託すための包括的なプロセスです。
法人格を持つ会社の経営を円滑にバトンタッチするには、計画的な準備が不可欠となります。
よく似た言葉「事業継承」との明確な違い
「事業承継」と「事業継承」は混同されがちですが、ニュアンスに違いが存在します。
「継承」は、前任者の権利や義務、財産などをそのまま引き継ぐという事実関係を指す言葉です。
一方で「承継」は、法律用語としても用いられ、前任者の地位や事業、精神性を受け継いだうえで、さらに発展させていくという積極的な意味合いを含んでいます。
会社の経営を引き継ぐ場面では、単なる相続にとどまらず、事業を継続・発展させる意図が強いため、一般的に「事業承継」という言葉が使われます。
どちらも事業を引き継ぐ点では共通していますが、「承継」の方がより企業の未来志向の活動を的確に表していると言えます。
事業承継で後継者に引き継がれる3つの大切な要素
事業承継で引き継がれるものは、単に代表者の椅子だけではありません。
会社の根幹を成す3つの大切な要素があり、これらを漏れなく後継者へ移転させる必要があります。
具体的には「経営権」「物的資産」「知的資産」の三つに大別され、それぞれが事業の継続に不可欠です。
これらの資産の移転には、遺言信託や公正証書遺言といった遺言書が関わる場合もあり、法務・税務の専門知識が求められます。
会社の所有権や経営の舵取り役となる「経営権」
事業承継において最も中核となるのが「経営権」の引き継ぎです。
株式会社の場合、経営権は株式の所有割合によって決まるため、後継者が安定的に経営の舵取りを行うには、会社の日常的な経営に関する意思決定が代表者自身が単独で出来るように議決権の過半数を、理想的には定款の変更など会社の根幹に関わる特別決議の単独可決ができるように3分の2以上の株式を集中させることが重要になります。
非上場株式は客観的な市場価格がないため、株価をどのように評価するかが極めて重要な論点となります。
これらの評価は、相続税・贈与税・譲渡所得税などの税務上の問題にも直結するため、税理士や公認会計士など専門家への相談が不可欠です。
計画的な承継設計を欠くと、株式が複数人に分散し経営が不安定化するおそれがあります。
たとえば、遺言や事業承継計画がないまま相続が発生し、会社の株式が法定相続分で分割・共有され共有株式の議決権行使について共有者が代表者を定められない場合、
株主総会の意思決定が滞り、取締役選任や決算承認が進まないなど、いわゆる「お家騒動」に発展するリスクがあります。
その防止策として、定款に株式譲渡制限を定める、遺言・持株会社・信託等による議決権の集中、事業承継税制や生命保険の活用による納税資金対策などを、事前に専門家と検討することが有効です。
※株式の評価方法については相続税法第22条、財産評価基本通達の第179条以降、相続財産の共有について民法第898条、株式の譲渡制限については会社法107条、事業承継税制については租税特別措置法第70条の7の5第6項が対象となります。
土地や設備など金銭的価値のある「物的資産」
事業承継では、会社が所有する金銭的価値のある「物的資産」もすべて引き継ぎの対象となります。
これには、事業所の土地や建物といった不動産、工場の機械設備、営業車両、パソコン、商品在庫などが含まれます。
また、現金や預金、売掛金といった流動資産も該当します。
これらの資産は、会社の貸借対照表で確認することが可能です。
しかし、注意すべきはプラスの資産だけではない点です。
金融機関からの借入金や買掛金といった負債、つまり債務も同時に引き継がれることになります。
これらの物的資産を正確に把握し評価することは、承継計画を立てる上で基礎となる重要な作業です。
独自の技術やノウハウなど目に見えない「知的資産」
企業の競争力の源泉でありながら、貸借対照表には現れないが、企業価値の中核を担う「知的資産」の承継は、事業承継の成否を分ける重要な要素です。
これには、特許・商標・実用新案など法的に保護された知的財産権のほか、独自の製造技術・研究データ・長年蓄積された顧客情報・取引先との信頼関係、従業員のスキルや経験、そして会社のブランドやロゴなど、企業価値を支える無形資産が含まれます。
農業や林業の栽培技術、建設業の施工ノウハウ、飲食店の秘伝レシピ、薬局の顧客管理、不動産業の情報網、製造業の特殊技術、宗教法人の運営ノウハウなど、業種を問わず企業・団体の継続的競争優位を支える極めて重要な要素です。
社内で活用するソフトウェアや業務システムなどのノウハウ・運用設計も知的資産の一部として扱われます。
【承継先別】事業承継の代表的な3つのパターン
事業承継を誰に託すかという観点から分類すると、主に3つの代表的なパターンが存在します。
従来は経営者の子どもなど身内に引き継ぐ「親族内承継」が主流でしたが、近年はその割合が減少し、役員や従業員、あるいは社外の第三者へ引き継ぐ例が増えています。
それぞれの方法にメリットとデメリットがあるため、自社の状況や経営者の意向に合わせて最適な承継先を選択することが肝要です。
子どもや親族に会社を託す「親族内承継」のメリットとデメリット
子どもや甥といった親族に会社を承継させる方法は、従来最も多く見られた形態です。
この方法のメリットは、従業員や取引先、金融機関などの関係者から信頼・理解を得やすい点にあります。
また、所有と経営の一体性を保ちやすく、後継者を早期から育成できるという利点もあります。
一方で、親族内に経営資質や意欲を備えた適任者がいない場合もあり、
資質を考慮せずに指名すると経営悪化を招くリスクがあります。
さらに、株式や遺産分割を巡る相続上の紛争が生じやすく、遺言書の作成や税務対策など事前準備が不可欠です。
役員や従業員に経営を任せる「社内承継」のメリットとデメリット
親族に適任者がいない場合、長年会社に貢献してきた役員や従業員の中から後継者を選ぶ「社内承継(従業員承継)」が選択肢となります。
この方法のメリットは、後継者が事業内容・経営理念・企業文化を熟知しているため、経営方針の一貫性を保ちやすく、従業員の離職防止にもつながる点です。
外部採用よりもスムーズな引継ぎが期待できます。
反面、株式取得資金を確保できないケースが多く、
個人保証や担保の承継が金融機関に認められない可能性があります。
現経営者にとっても、退職金や生活資金を含む資金計画の策定が重要になります。
M&Aで社外の第三者に引き継ぐ「第三者承継」のメリットとデメリット
親族や社内に後継者が見つからない場合に有効な手段が、M&A(合併・買収)を活用して社外の企業や個人に事業を引き継ぐ「第三者承継」です。
この方法の最大のメリットは、後継者不在という問題を根本的に解決できる点にあります。
広く候補を探せるため、自社の事業をさらに発展させてくれる最適なパートナーを見つけられる可能性があります。
また、現経営者は株式売却による利益(いわゆる創業者利益)を得ることができ、引退後の生活資金や新たな事業資金を確保できます。
一方で、希望条件(業種・地域・価格など)に合う買い手を見つけるまでに時間を要するという課題があります。
さらに、買い手企業との企業文化や経営方針の違いにより、従業員の雇用条件変更や離職が発生するリスクもあります。
また、交渉段階では秘密保持契約(NDA)を締結し、開示する情報の範囲・時期を慎重に管理することが重要です。
第三者承継を検討する際には、M&A専門家・弁護士・税理士などの助言を受けながら、株式譲渡・事業譲渡・合併など自社に最適な手法を選定することが望まれます。
事業承継を円滑に進めるための5つのステップ
事業承継は、思い立ってすぐに実行できるものではなく、周到な準備と計画的な実行が成功の鍵を握ります。
一般的に、準備期間として5年から10年程度の時間が必要とされています。
ここでは、事業承継を円滑に進めるための流れを、具体的な手順に沿って5つのステップに分けて解説します。
適切な時期を見極め、正しい進め方を理解することが重要です。
ステップ1:会社の現状を把握し承継の必要性を認識する
事業承継の第一歩は、経営者自身が会社の現状を客観的に把握し、事業承継の必要性を明確に認識することから始まります。
自社の強みと弱み、財務状況、収益性、将来性を分析し、「誰に」「いつ」「どのように」引き継ぐのかという基本方針を検討することが重要です。
この段階で、会社が保有する資産・負債・知的資産をリストアップし「見える化」しておくことが重要です。
また、経営者自身が抱える課題や、事業承継に対するニーズ(たとえば運転資金や退職金の確保、後継者への支援体制など)を整理することで、今後の承継計画に具体性と現実性が生まれます。
こうした自己分析は、後継者選定や計画策定の出発点であり、円滑かつ持続的な事業承継に向けた土台となります。
ステップ2:後継者候補を選び育成計画を具体化する
会社の現状分析を踏まえ、まずは承継方針(親族内承継・社内承継・第三者承継)を明確にし、具体的な後継者候補の選定に進みます。
候補者が決まったら、その人物が経営者として必要な資質を身につけられるよう、中長期的な育成計画を立て、段階的に実践していくことが重要です。
育成にあたっては、単に業務経験を積ませるだけでなく、経営判断力、リーダーシップ、財務・法務・人事など経営管理に関する総合的な知識を体系的に習得させることが求められます。
具体的には、社内でのジョブローテーションや子会社の経営実務を任せる経験に加え、外部研修や経営者向けセミナーへの参加など、多角的な学びの機会を設けることが効果的です。
後継者の育成には数年単位の時間を要するため、早期の着手と継続的なフォローアップが成功の鍵となります。
ステップ3:中長期的な視点で事業承継計画書を作成する
後継者候補の育成と並行して、中長期的な視点に立った事業承継計画書を策定します。
この計画書は、事業承継を円滑に進めるための具体的な行動指針(ロードマップ)となる重要な文書です。
計画書には、今後5年から10年を見据えた会社の将来ビジョンを明記し、後継者への経営権の集中方法、株式や事業用資産の移転時期と手法、さらに相続税・贈与税などの税務対策を盛り込みます。
また、1年後・3年後・5年後といったマイルストーンを設定し、「誰が」「いつまでに」「何を実行するのか」を具体的に示すことが重要です。
こうしたスケジュールを明確化することで、関係者間の意思統一が図られ、課題の洗い出しや対策の優先順位づけが容易になります。
事業承継計画書は、単なる文書ではなく、経営のバトンを確実に渡すための実行計画として位置づけ、定期的に内容を見直しながら運用していくことが成功のポイントです。
ステップ4:計画に沿って株式や資産の移転を実行する
事業承継計画書が完成したら、その内容に沿って具体的な承継手続を段階的に実行していきます。
このフェーズでは、株式や事業用資産を後継者へ円滑に移転するための法務・税務手続が中心となります。
たとえば、株式譲渡の場合は、取締役会・株主総会の承認(譲渡制限会社の場合)および株式譲渡契約書の作成・株主名簿の書換が、贈与による承継の場合は、贈与契約書の作成・贈与税申告などの税務対応を行います。
また、経営者交代に伴い、代表取締役や取締役の変更登記(会社法第915条に基づき2週間以内に登記申請)や、金融機関との保証契約・借入契約の見直しなども発生します。
これらの手続には、会社法・相続税法・商業登記法などの知識が求められるため、弁護士・司法書士・税理士などの専門家と連携し、必要書類を正確かつ期限内に整備することが重要で、専門家のサポートを受けながら、法的リスク・税務負担・関係者調整を適切にコントロールし、計画書に基づいたスケジュールで確実に実行することが、事業承継成功の大きな鍵となります。
※代表取締役や取締役の変更登記については会社法第915条に基づき2週間以内に登記申請を行う必要があります。
ステップ5:承継後の新体制を社内外に周知し経営を安定させる
資産や株式の移転が完了し、後継者が正式に経営を引き継いだ後も、事業承継はそこで完結するわけではありません。
新体制を円滑に軌道に乗せるためには、従業員・取引先・金融機関など社内外の関係者に対して、経営者交代の事実と今後の経営方針を明確に伝えることが重要です。
特に、経営方針の継続性や新体制のビジョンを丁寧に説明し、関係者の理解と信頼を得ることが経営の安定化につながります。
この周知を怠ると、社内の混乱や取引先との関係悪化といったトラブルを招くおそれがあるため注意が必要です。
また、過去の成功・失敗事例を参考に、情報共有のタイミングや伝え方、組織体制の移行スケジュールなどを慎重に設計することも効果的です。
承継直後は、現経営者が会長職・顧問職などの立場で一定期間後継者をサポートし、段階的に経営権を委譲することで、社内外の安心感を高めることができます。
事業承継は、「引き継ぐ」から「定着させる」段階へ。
新体制の信頼構築と経営基盤の安定化を図ることが、真の承継完了といえるでしょう。
多くの中小企業が抱える事業承継の現状と課題
日本では現在、多くの中小企業が経営者の高齢化と後継者不足という共通の課題に直面しています。
国や民間調査の統計によると、経営者の平均年齢は60歳を超え、後継者が不在の企業は依然として全体の6割以上に上ります。
後継者不在でやむなく休業や廃業を選ぶ企業が増加
近年、業績が堅調でありながら後継者が見つからないことを理由に、事業の継続を断念し休業・廃業を選択する中小企業が増加しています。
独自の技術やノウハウ、地域に根差した顧客基盤を持つ黒字企業であっても、事業を引き継ぐ人材がいなければ事業継続が困難となるケースがあります。
こうした「後継者不在による廃業・倒産」は、単なる一企業の問題にとどまらず、長年培われた技術・ブランドの喪失、雇用の減少、取引先への連鎖的影響など、地域経済全体にとって深刻な損失をもたらします。
事業承継は、単なる経営者交代ではなく、日本の社会・経済の活力を維持するための重要な政策課題です。
地域の雇用・産業・技術を守り次世代へつなぐためにも、早期の承継準備と支援体制の活用が不可欠です。
事業承継の際に発生する可能性のある税金の種類
事業承継では、株式や事業用資産などの財産を移転する際に、承継の方法によって複数の税金が発生する可能性があります。
それぞれの手法によって課される税目・税率・納税額は大きく異なるため、事前にどのような税務上の負担が生じるのかを把握しておくことが重要です。
税務面を考慮せずに承継を進めてしまうと、後継者に過大な納税負担が生じ、計画が滞るリスクもあります。
個人から資産を無償で受け継ぐ場合の「相続税」や「贈与税」
親族内承継などで、現経営者(個人)が保有する株式や事業用資産を無償で後継者に引き継ぐ場合、相続税または贈与税の課税対象となります。
経営者が生前に資産を移転する「生前贈与」の場合は贈与税が、経営者の死亡によって承継する場合は相続税が課されます。
特に非上場株式は、業績や純資産の状況によって評価額が高額化する傾向があり、想定以上の税負担となるケースも少なくありません。
納税資金を準備できずに承継が滞る事例もあるため、早期に税理士など専門家と連携し、事業承継税制などの特例活用を検討することが重要です
株式の売却で得た利益にかかる「所得税」や「住民税」
第三者承継(M&A)や社内承継など、株式を有償で譲渡する場合、現経営者には株式譲渡益(譲渡所得)が発生します。
この利益に対しては、所得税および復興特別所得税、さらに住民税が課されます。
非上場株式の譲渡所得は、他の所得と分離して税額を計算する申告分離課税の対象であり、
税率は一律20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)です。
承継方法によって課税関係は大きく異なるため、どの手法が自社にとって最も有利かを税務面から慎重に比較検討することが不可欠です。
事業承継の金銭的負担を軽くする公的支援制度
事業承継には、税金や専門家報酬などの多額の金銭的負担が発生します。
こうした負担を軽減し、円滑な承継を支援するために、国や中小企業庁、日本政策金融公庫などが様々な支援制度を設けています。
代表的なものとして、税負担を軽減する「事業承継税制」や、
経費の一部を補助する「事業承継・引継ぎ補助金」、さらに公庫等による低利融資制度があります。
税金の支払いが猶予・免除される「事業承継税制」の活用
事業承継税制は、後継者が非上場株式等を先代経営者から相続または贈与により取得した場合、一定の要件を満たすことで、相続税・贈与税の納税を猶予・免除できる制度です。
特例措置(2027年12月31日まで適用)では、
・対象株式数の上限撤廃
・納税猶予割合100%
など、非常に手厚い支援内容となっています。
この制度を活用すれば、後継者の納税資金負担を大幅に軽減でき、資金繰りの安定化が期待できます。
ただし、適用には都道府県への認定申請や継続的な報告義務などがあり、要件は複雑なため、
税理士・認定経営革新等支援機関の専門的支援を受けることが重要です。
専門家への相談費用などを補助する「事業承継・引継ぎ補助金」
「事業承継・引継ぎ補助金」は、事業承継やM&Aを契機に新たな取り組みを行う中小企業に対し、その経費の一部を国が補助する制度です。
助対象には、
・M&A専門家への相談・仲介費用
・デューデリジェンス(企業調査)費用
・経営革新・設備投資・販路開拓費用
などが含まれます。
例えば、2024年度の公募では、事業の引継ぎを契機とした新規投資・商品開発・販路拡大も支援対象に加えられています。
補助金を活用することで、承継にかかる初期コストを抑え、承継後の成長投資を加速させることが可能です。
申請は公募期間内に所定の手続きを行う必要があり、最新の公募要領を確認して準備することが求められます。
後継者探しに役立つ事業承継マッチングサービス
親族や社内に適当な後継者が見つからない場合、第三者承継が有力な選択肢となります。
従来、M&Aは専門の仲介会社を通じて行われるのが一般的でしたが、近年ではオンラインの事業承継マッチングサービスが急速に普及しています。
これらを活用することで、全国から意欲ある後継者候補を探すことが可能となりました。
代表的なサービスには、Relay(リレイ)、トランビ、バトンズ、ビズリーチ・サクシード、ストライク、MUFG系サービスなどがあり、登録案件数も年々増加しています。
後継者を探す経営者と起業家を結ぶオンラインプラットフォーム
事業承継マッチングサービスは、事業を譲りたい経営者と、事業を引き継いで起業・拡大を目指す個人や企業をオンラインで結びつける仕組みです。
多くのサービスでは、売り手は会社名を伏せた状態で事業概要や希望条件を無料登録でき、買い手候補はそれらを閲覧して関心のある案件にアプローチします。
近年は、YouTubeやSNSを活用した案件紹介や、副業・地方創生型の小規模承継など、多様な形態が登場しています。
これにより、従来では出会えなかった経営者と起業家が出会う機会が大幅に増えています。
第三者承継の選択肢を広げるマッチングサービスの利点
マッチングサービスの最大の利点は、第三者承継の可能性を大きく広げられる点です。
M&A仲介会社では主に法人間のマッチングが中心ですが、オンラインプラットフォームを活用することで、個人起業家や地域外の後継者候補とも出会うことができます。
地理的制約を超え、たとえば東京都の企業が地方の若手起業家とマッチングするといった事例も増えています。
また、利用料・手数料が比較的低く設定されているサービスも多く、中小企業でも利用しやすい点が魅力です。
多様な候補者の中から自社の文化・価値観に合う後継者を選定できるという柔軟性も大きな利点です。
※なお、交渉段階では秘密保持契約(NDA)の締結や専門家(弁護士・税理士・M&Aアドバイザー)によるサポートを受けながら進めることが推奨されます。
会社の未来のために事業承継を成功させる3つのポイント
事業承継は、単なる手続きではなく、会社の未来を左右する重要な経営戦略です。
成功に導くためには、早期の準備・関係者との信頼形成・専門家の活用という3つの要素を押さえる必要があります。
以下では、持続的な成長と円滑なバトンタッチを実現するための3つのポイントを整理します。
5~10年後を見据えて早めに準備を開始する
事業承継を成功させる最も重要なポイントは、早期の準備です。
後継者の選定・育成、自社株の評価と移転方法の検討、関係者との調整など、
承継には5~10年程度の準備期間が必要とされています。
経営者が健康で判断力のあるうちに着手すれば、時間的な余裕をもって最適な承継計画を策定・実行できます。
これは、大都市圏の企業から地域の中小企業まで、規模や業種を問わず共通する成功の要諦です。
後継者や関係者と時間をかけて対話し理解を得る
事業承継は、経営者一人で完結するものではありません。
後継者はもちろん、親族、従業員、取引先、金融機関など、多くのステークホルダーの理解と協力が不可欠です。
特に後継者とは、経営理念や将来ビジョンについて時間をかけて対話し、価値観を共有することが重要です。
この対話を通じて生まれる信頼関係こそが、円滑な承継の基盤となります。
また、商工会議所・業界団体・外部支援機関などと連携し、関係者全員が納得できる形で進める姿勢も欠かせません。
税理士や専門機関など信頼できる相談先を見つける
事業承継には、税務・法務・財務・労務など、多岐にわたる専門知識が必要です。
そのため、早期に信頼できる相談先を確保することが重要です。
顧問税理士や会計士、弁護士などの専門家はもちろん、全国に設置されている事業承継・引継ぎ支援センターや商工会議所・金融機関の相談窓口を積極的に活用しましょう。
これらの専門家・公的機関は、客観的な視点から最適な承継計画づくりを支援します。
また、必要に応じて信託銀行の「事業承継信託」や保険商品といった金融サービスを活用することも有効ですが、利用にあたっては専門家の助言を受けながら慎重に検討することが求められます。
まとめ
事業承継は、全国の中小企業や個人事業者にとって避けて通れない経営課題です。
その重要性は、企業の規模や業種、地域を問わず変わりません。
円滑な承継を実現するためには、早期の準備、関係者との丁寧な対話、そして専門家の積極的な活用が不可欠です。
これらの取組を着実に進めることが、企業の持続的な発展と地域経済の安定に直結する第一歩となります。
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休業日(水曜・日曜・祝日)以外 [9:00~18:00]
