相続不動産の評価額【土地・建物】相続税の計算方法をわかりやすく解説
相続不動産の評価額【土地・建物】相続税の計算方法をわかりやすく解説
不動産の相続において、相続税の計算の基礎となるのが相続不動産の評価です。
土地や建物の評価方法はそれぞれ異なり、条件ごとに多様な算定基準が存在するため、正しい知識がなければ適正な相続税額を算出するのは困難です。
この記事では、土地と建物の評価方法の基本から、具体的な計算方法、さらには節税につながる特例や注意点まで、不動産の相続に必要な情報を網羅的に解説します。
そもそも相続不動産の評価額とは?相続税額を決める重要な基準
相続税を計算する際、現金や預貯金以外の遺産は、その価値を金銭に見積もる必要があります。
この金銭に見積もられた価額が「相続税評価額」です。
不動産の場合、一般的に売買される時価とは異なり、国税庁が定めた財産評価基本通達に基づいて評価します。
この評価額が相続税額を直接左右するため、その仕組みや調べ方を正しく理解しておくことが重要になります。
【土地編】相続財産の土地評価額を計算する2つの方法
相続財産の中でも土地の評価は特に複雑で、主に「路線価方式」と「倍率方式」という2つの方法を用いて計算します。
どちらの方法を用いるかは、土地が所在する地域によって定められています。
路線価方式は市街地的な形態を形成する地域で、倍率方式はそれ以外の地域で適用されるのが一般的です。
土地の状況を正しく把握し、適切な評価方法を選択することが、適正な相続税申告の第一歩となります。
道路に面した土地で用いる「路線価方式」の計算手順
路線価方式は、国税庁が定める路線価に基づいて土地の評価額を算出する方法です。
路線価とは、主要な道路に面する宅地の1平方メートルあたりの価額を千円単位で示したもので、毎年7月頃に公表されます。
具体的な計算は、まず路線価に土地の面積を乗じて基本となる評価額を求めます。
土地の形状が不整形であったり、間口が狭かったり、奥行きが長すぎたり短すぎたりする場合には、画地調整率という補正率を用いて評価額を調整します。
この補正を行うことで、土地の個性や利用価値を評価額に反映させ、より実態に即した価額を算出します。
路線価は国税庁のウェブサイトで公開されている「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で確認できます。
路線価が設定されていない土地で用いる「倍率方式」の計算手順
路線価が定められていない地域の土地は、倍率方式という評価方法を用いて評価額を算出します。
この方法は、土地の固定資産税評価額に、国税庁が地域ごとに定めた一定の倍率を乗じて計算するシンプルな仕組みです。
固定資産税評価額は、毎年市区町村から送付される固定資産税の納税通知書に記載されている「価格」または「評価額」の欄で確認できます。
また、倍率は国税庁のウェブサイトで公開されている「財産評価基準書路線価図・評価倍率表」で調べることが可能です。
倍率方式は計算が比較的容易ですが、固定資産税評価額そのものが土地の評価の基礎となるため、この価額が正確であることが前提となります。
農地や山林など、主に郊外の土地評価に用いられることが多い方法です。
貸している土地は評価額が下がる?利用状況ごとの評価方法
相続した土地の利用状況は、評価額に大きく影響します。
例えば、土地を他人に貸している場合、所有者の権利が制約されるため評価額が減額されます。
自身で利用している土地(自用地)の評価額を100%とすると、建物の敷地として他人に貸している「貸宅地」は、借地権の割合に応じて評価額が下がります。
同様に、アパートやマンションの敷地として利用されている「貸家建付地」も、借地権割合と借家権割合、賃貸割合を考慮して評価額が減額される仕組みです。
また、借地権そのものを相続した場合も、自用地としての評価額に借地権割合を乗じて評価します。
このように、土地の利用形態によって評価額が変わるため、相続開始時点でどのように利用されていたかを正確に把握することが重要です。
【建物編】相続した家やマンションの評価額を計算する方法
相続財産に建物が含まれる場合、その評価額は土地とは別の方法で算出します。
一戸建ての家屋とマンションでは評価の考え方が少し異なりますが、どちらも基本的には固定資産税評価額が基準です。
建物の評価は土地に比べて比較的シンプルですが、賃貸している場合には評価額が減額されるなど、利用状況に応じた計算が必要になる点に注意が必要です。
ここでは、建物の種類や利用状況ごとの評価方法について解説します。
自宅など自分で利用していた建物の評価額は固定資産税評価額で決まる
相続した建物が被相続人自身の居住用であったり、空き家だったりするなど、自分で利用していた場合(自用家屋)の相続税評価額は、固定資産税評価額と同額になります。
固定資産税評価額は、市区町村が3年ごとに見直す公的な価格で、建物の構造や築年数、面積などに基づいて決定されます。
この金額は、毎年送られてくる固定資産税の納税通知書に添付されている課税明細書で確認可能です。
もし納税通知書が見当たらない場合は、不動産の所在地を管轄する市区町村役場や都税事務所で「固定資産評価証明書」を取得すれば確認できます。
土地のように路線価や補正率を用いた複雑な計算は不要で、評価証明書に記載された価額をそのまま申告書に記載します。
アパートや貸家など賃貸用の建物の評価額を計算する方法
相続した建物がアパートや貸家など、第三者に賃貸している物件(貸家)の場合、その相続税評価額は減額されます。
所有者であっても入居者がいる限り自由に利用できないため、その権利の制約分が評価額から差し引かれる仕組みです。
具体的な計算方法は、まず建物の固定資産税評価額を基本とします。
そこから、「固定資産税評価額×借家権割合×賃貸割合」で算出される金額を控除します。
借家権割合は全国一律で30%と定められています。
賃貸割合は、アパート全体の床面積のうち、実際に賃貸されている部分の床面積が占める割合です。
満室であれば100%ですが、空室がある場合はその分、割合が下がります。
この計算により、自用の建物と比較して評価額を低く抑えることが可能です。
【ケース別】相続不動産の評価額をシミュレーションしてみよう
ここまで土地と建物の評価方法の原則を解説しましたが、具体的な数字を用いたシミュレーションを見ることで、より理解が深まります。
路線価方式、倍率方式、そして賃貸物件の場合という、代表的な3つのケースを取り上げ、それぞれの評価額の計算例を示します。
実際の相続税申告では、土地の形状などに応じた補正が必要になることもありますが、ここでは基本的な計算の流れを把握することを目的とします。
路線価方式で自宅の敷地を評価する場合の計算例
例えば、自宅敷地(自用地)が正面路線に面しており、正面路線価が30万円/㎡、土地面積が200㎡の整形地であるとします。
このケースでは、土地の形状や間口・奥行による補正はないものと仮定します。
計算式は「路線価 × 土地面積 × 各種補正率」となりますが、本例では補正なし(補正率=1.0)と仮定しているため、
「30万円/㎡ × 200㎡ × 1.0」となり、相続税評価額は6,000万円と算出されます。
なお、実際の評価では、角地・不整形地・間口狭小地などの場合に、国税庁が定める補正率(奥行価格補正率・側方路線影響加算率・間口狭小補正率など)を適用し、より実態に近い評価額を求めます。
また、路線価は毎年7月に国税庁が公表し、相続発生日(被相続人の死亡日)の属する年の路線価を用いて評価することが原則です。
倍率方式で地方の土地を評価する場合の計算例
路線価が設定されていない地域にある土地の評価額を、倍率方式で計算する例を見てみましょう。
仮に、固定資産税評価額が1,500万円の土地で、その土地の現況(利用区分)に応じて適用される評価倍率が1.1倍と定められているとします。
この場合の計算式は、「固定資産税評価額×評価倍率」です。
具体的な計算は、「1,500万円×1.1」となり、相続税評価額は1,650万円と算出されます。
この方法は路線価方式に比べて計算が単純明快ですが、評価の基礎となる固定資産税評価額や、適用される倍率がその土地の利用状況(宅地・田・畑・山林など)に合致していることが前提です。
固定資産税評価額は固定資産税の納税通知書で、評価倍率は国税庁のウェブサイトで確認できるため、必要な情報を集めれば比較的容易に評価額を把握できます。
賃貸アパートとその敷地をまとめて評価する場合の計算例
相続財産が賃貸アパート一棟とその敷地である場合の評価額を計算します。
まず、土地は「貸家建付地」として評価します。
貸家建付地とは、賃貸建物(貸家)が建っており、その入居者が借家権という法的な使用権を有する土地を指します。
この場合、土地の所有者(貸主)は入居者に貸している建物を取り壊したり自由に利用したりできないという制約を受けるため、経済的な利用価値が制限される分だけ評価が低くなる(=自用地より低く評価される)仕組みです。
一方、建物は「貸家」として評価します。
「貸家」とは、入居者が借家権を持ち、所有者が自由に使用・処分できない建物を指します。
そのため、所有権に制約がある状態として、固定資産税評価額に借家権割合を乗じて評価額を調整します。
具体例として、次の条件の物件を相続したとします
・土地に関する評価: 土地の自用地評価額:1億円、 借地権割合:60%
・建物に関する評価: 建物の固定資産税評価額:5,000万円、 借家権割合:30%、 賃貸割合:100%(満室)
この場合、
土地の評価額 = 土地の自用地評価額 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合) なので
= 1億円 × (1 − 0.6 × 0.3 × 1.0) = 8,200万円 が土地にかかる税金に対する土地の評価額となり、
建物の評価額 = 建物の固定資産税評価額 × (1 − 借家権割合 × 賃貸割合) なので
= 5,000万円 × (1 − 0.3 × 1.0) = 3,500万円 が建物にかかる税金に対する土地の評価額となります。
なお、上記例では賃貸割合:100%(満室)として計算していますが、空室や利用差し止めなどにより賃貸割合はその時点の利用状況から数値を出す必要があります。
計算式は 賃貸割合 = 賃貸されている各独立部分の床面積の合計 ÷ 貸家全体の独立部分の床面積の合計 です。
部分的な利用停止の場合は空室と同じで各独立部分の床面積の合計は変化しませんが、火災で焼失したり、立ち入り禁止になったりした場合はその部分の床面積は賃貸部分から除外されます。
この計算は、区分所有建物(分譲マンションなど)の評価とは異なりますが、賃貸による評価減の考え方は、一棟所有のマンションやアパートなど賃貸用不動産にも共通しています。
相続不動産の評価額で損をしないために知っておきたい注意点
相続不動産の評価額を正確に算定することは、法令に基づく適正な相続税の申告・納付に直結します。
評価方法を誤って申告した場合、相続税の過少申告となり、後日修正申告や追徴課税の対象となる可能性があります。
逆に、適用できる特例を見落とすと、必要以上に高い税額を申告してしまうおそれもあります。
ここでは、相続税の申告を正確に行うために必要な書類の準備、評価減・特例制度の確認、そして専門家に相談すべきタイミングなど、実務上の注意点を解説します。
※相続財産の評価は「相続税法第22条」および「国税庁 財産評価基本通達」に基づいて行います。誤りがあった場合には、「国税通則法第23条・第65条」に基づき更正・追徴課税の対象となることがあります。
評価額の計算に必要な書類は早めに揃えておく
相続不動産の評価額を計算するためには、いくつかの書類が必要です。
相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内と定められているため、早めに準備を始めることが肝心です。
主に必要となるのは、固定資産税の納税通知書(または固定資産評価証明書)、登記事項証明書(登記簿謄本)、住宅地図、公図、地積測量図などです。
これらの書類は、不動産の所在地や面積、形状、権利関係などを正確に把握するために不可欠です。
固定資産税の納税通知書は毎年送付されますが、紛失した場合は市区町村役場で固定資産評価証明書を取得します。
登記事項証明書や公図などは法務局で入手可能です。
これらの書類の調べ方を事前に確認し、計画的に収集を進めることが、スムーズな申告手続きにつながります。
土地の形や条件次第で評価額を減額できる特例がある
土地の評価においては、その形状や周辺環境によって評価上、形状や環境等を考慮した補正(画地調整)が行われます。
例えば、土地の形状が正方形や長方形からかけ離れた不整形地である場合、利用しにくさを考慮して評価額が減額されます。
また、道路に面している間口が狭い土地や、逆に奥行きが長すぎる土地も同様に減額の対象です。
さらに、私道にしか接していない土地や、高圧線下・騒音・悪臭など、利用制限が生じる土地も、その利用価値の低下を理由に評価額を下げることが可能です。
これらの減額要素は画地調整と呼ばれ、適用するには専門的な知識が求められる評価方法です。
これらを見逃すと課税評価が過大となり、結果的に過大な税額を申告してしまうため、土地の状況を詳細に確認することが重要になります。
複雑な土地の評価は税理士など専門家への相談がおすすめ
不動産、特に土地の相続税評価は非常に専門的で複雑です。
路線価方式における画地調整や、広大な土地の評価、複数の道路に面している土地の評価など、一般の方が自力で正確に計算するのは困難なケースが少なくありません。
評価方法を誤ると、税務署から申告漏れを指摘され、過少申告加算税や延滞税といった過少申告加算税や延滞税の対象となる可能性があります。
逆に、減額できる要素を見逃して過大に納税してしまう可能性も否定できません。
相続財産に不動産が含まれる場合、特に評価が難しい土地がある場合には、相続税を専門とする税理士に相談することを推奨します。
専門家であれば、土地の状況を現地調査なども含めて多角的に分析し、適用可能な特例を漏れなく反映させた適正な評価額を算出できます。
まとめ
相続不動産の評価は、相続税額を決定する上で極めて重要な手続きです。
土地の評価には路線価方式と倍率方式があり、建物の評価は固定資産税評価額を基本とします。
特に土地は、形状や利用状況によって評価額が大きく変動するため、正確な知識が求められます。
賃貸している不動産は、権利の制約から評価額が減額される仕組みも存在します。
評価に必要な書類は早めに準備し、不整形地などの減額要因がないかを確認することが肝要です。
相続税の申告と納税には期限があり、手続きは複雑を極めます。
もし評価に少しでも不安があれば、相続を専門とする税理士に相談し、適正な評価額を算出することが、円満な相続手続きを完了させるための鍵となります。
