ファミリーオフィスとは?設立メリットや資産管理会社との違いを解説
ファミリーオフィスとは?設立メリットや資産管理会社との違いを解説
ファミリーオフィスとは、特定の一族が持つ資産の管理・運用を包括的に行うために設立されるプライベートな組織です。
その設立には、長期的な資産形成や円滑な事業承継など、多くのメリットが期待できます。
この記事では、ファミリーオフィスの基本的な意味から、資産管理会社などの類似サービスとの違い、具体的な設立方法、そして注意点までを網羅的に解説し、一族の資産承継を検討する上で役立つ情報を提供します。
ファミリーオフィスとは一族の資産を管理・運用する組織のこと
ファミリーオフィスとは、欧米の富裕層を中心に発展してきた、一族の資産を永続的に管理・運用し、次世代へ承継していくことを目的としたプライベートな組織を意味します。
その役割は、単に株式や不動産などの資産を運用するだけでなく、事業承継の計画、相続対策、税務・法務について弁護士や税理士と連携した専門的なアドバイス、次世代への教育、さらには社会貢献活動(フィランソロピー)の支援まで、非常に多岐にわたります。
金融機関のように短期的な利益を追求するのではなく、一族全体の永続的な繁栄という長期的な視点に立って、あらゆる意思決定を行うのが大きな特徴です。
ファミリーオフィスと類似サービスとの違い
ファミリーオフィスは、包括的な機能から、資産管理会社やプライベートバンク、ヘッジファンドといった他の富裕層向けサービスと混同されることがあります。
しかし、それぞれの目的やサービスの範囲には明確な違いが存在します。
これらの類似サービスとの比較を通じて、ファミリーオフィスが持つ独自の役割と価値を理解することは、自らに最適な資産管理の形態を選択する上で不可欠です。
資産管理会社との違いは目的と対象範囲
資産管理会社は、主に個人の所得税や相続税対策を目的として設立されることが多いプライベートカンパニーです。
役員報酬の活用や不動産管理による節税が主な機能であり、その対象範囲は設立者本人やその近親者の資産に限られる傾向にあります。
一方で、ファミリーオフィスは、節税という個別の目的だけでなく、一族全体の資産を保全し、次世代へ承継していくという、より長期的で広範な目的を持ちます。
企業の経営とは独立した立場で、一族の理念や価値観の継承までを視野に入れた活動を行う点が、資産管理会社との本質的な違いです。
プライベートバンクとの違いは提供サービスの包括性
スイスなどで発展したプライベートバンクは、富裕層を対象に資産運用を中心とした高度な金融サービスを提供します。
金融商品の提案や融資、事業承継に関するアドバイスも行いますが、あくまで金融機関という立場からのアプローチです。
これに対し、ファミリーオフィスは、一族の代理人として、より上位の視点からサービスを提供します。
金融資産の管理に留まらず、法務、税務、教育、ライフスタイルサポートまで包括的に手掛け、プライベートバンクを含む外部の専門家を客観的に評価し、管理・監督する役割も担う点が大きく異なります。
日本でファミリーオフィスが注目され始めた背景
ファミリーオフィスは、古くは欧州の荘園制度や家産管理に由来するとされ、19世紀の後半には組織化され現代のような形に形成されてきました。
中小零細企業が多い日本においてはまだその概念や認知度は低いものの、従来からの資本家の系譜や規制緩和後のニューリッチの存在など、社会的な要求度も上がってきているように見受けられます。
経営者家系では、企業の主軸となっている世代の高齢化により後継者へ円滑に自社株や事業を承継する必要性が高まる中で、一族の資産を統合的に管理する仕組みが求められています。
また、グローバル化により資産の形態が多様化・複雑化していることも一因です。
海外の事例を参考に、単なる資産の継承だけでなく、一族の理念や価値観といった無形資産を次世代に伝えていくための組織として、ファミリーオフィスの重要性が認識されつつあります。
ファミリーオフィスが提供する主なサービス内容
ファミリーオフィスが提供するサービスは、一族の資産状況や価値観、抱える課題に応じて多岐にわたります。
その本質は、一族の執事(バトラー)として、あらゆる要望に応えることにあります。
資産管理や事業承継といった財務的なサポートはもちろんのこと、次世代教育や社会貢献活動といった非財務的な領域まで、その活動範囲は非常に広範です。
ここでは、提供されるサービス内容の具体的な例を挙げて解説します。
一族の資産管理・運用戦略の策定
ファミリーオフィスのサービスは、一族全体の資産を長期的な視点で保全・運用することです。
まず、金融資産、不動産、事業投資など、国内外に分散する全ての資産を可視化し、一元的に把握します。
その上で、一族の目標やリスク許容度に基づいた資産運用戦略を策定し、実行に移します。
市場動向を分析しながら、最適なポートフォリオを構築・管理し、必要に応じて不動産、未上場株(プライベート・エクイティ)、商品(コモディティ)、ヘッジファンドなどを対象としたオルタナティブ投資も検討します。
外部の運用会社を選定・監督する役割も担い、一族の資産を最大化するための司令塔として機能します。
事業承継や相続に関する計画立案と実行支援
創業家にとって、事業承継と相続は最も重要な課題の一つです。
ファミリーオフィスは、後継者の選定や育成計画の策定、自社株の円滑な移転、相続税の納税資金対策など、事業承継に関する包括的な計画を立案し、その実行を支援します。
単なる節税対策に終始するのではなく、一族の理念や経営方針が次世代に正しく引き継がれることを重視します。
遺産分割協議が円滑に進むよう親族間の調整役を担うなど、法務・税務の専門家と連携しながら、争いのない円満な相続の実現を目指します。
次世代への教育や育成プログラムの提供
一族の資産と理念を永続的に継承するためには、次世代の教育が不可欠です。
ファミリーオフィスは、資産家としての心構えや金融リテラシー、リーダーシップなどを身につけるための教育プログラムを企画・提供します。
専門家を招いたセミナーの開催や、関連書籍の推薦、国内外の教育機関への留学支援、インターンシップ先の紹介など、その内容は多岐にわたります。
また、一族の歴史や創業の精神を学ぶ機会を設けることで、資産を受け継ぐことの責任と誇りを醸成し、一族としてのアイデンティティを育む役割を担います。
法律・税務に関する専門的なアドバイス
ファミリーオフィスは、弁護士や税理士、公認会計士といった専門資格を持つスタッフを内部に擁するか、外部の専門家と強固なネットワークを構築しています。
これにより、資産管理や事業承継、M&A、国際税務など、一族が直面する複雑な法律・税務問題に対して、迅速かつ的確なアドバイスを提供することが可能です。
国内外の法制度や税制、各種規制の変更にも常に注意を払い、コンプライアンスを遵守しながら、一族の利益を最大化するための最適なストラクチャーを提案・実行します。
ライフスタイルに関わるコンシェルジュサービス
富裕層の多様なニーズに応えるため、ファミリーオフィスは一族のメンバーのライフスタイル全般をサポートするコンシェルジュサービスも提供します。
例えば、青山などの高級住宅地における住居の手配、子弟の教育に関するカウンセリングや学校選定、国内外の旅行プランニング、希少な美術品の購入・管理、さらには個人の健康管理やセキュリティ対策まで、その範囲は非常に広範です。
これらのサービスを通じて、一族のメンバーが本業や自己実現に集中できる環境を整え、生活の質を高める支援を行います。
ファミリーオフィスの主な種類と特徴
ファミリーオフィスは、そのサービスの対象となる一族の数によって、大きく二つのタイプに分類されます。
一つは、特定の一族のためだけに存在する「シングル・ファミリーオフィス」、もう一つは、複数の富裕層一族を顧客とする「マルチ・ファミリーオフィス」です。
それぞれにメリット・デメリットがあり、資産規模や求めるサービスの質、かけられるコストなどによって、どちらの形態を選択するかが決まります。
海外ではビル・ゲイツやジョージ・ソロスといった有名投資家のファミリーオフィスも知られています。
特定の一族のみを対象とする「シングル・ファミリーオフィス」
シングルファミリーオフィスは、特定の一族のためだけに設立・運営される、完全にプライベートな組織です。
一族の価値観や理念を深く反映させた、オーダーメイドのサービスを提供できる点が最大の利点です。
運営の自由度が高く、外部に情報が漏れにくいという機密性の高さも特徴といえます。
しかし、専門家を雇用し、組織を維持していくためには、年間数億円規模の莫大なコストが発生します。
そのため、一般的には総資産が数百億円を超える超富裕層が対象となります。
身近なところでは、任天堂の創業者一族である山内家が設立した組織がアクティビスト・ファンドとして中堅ゼネコン企業に対してTOB(株式公開買い付け)と経営陣の入れ替えを提案したことなどで時折経済紙に掲載されており、国内のァミリーオフィスとして一定の認知がある例だと言えるでしょう。
複数の一族を対象とする「マルチ・ファミリーオフィス」
マルチ・ファミリーオフィスは、複数の富裕層一族をクライアントとして、専門的なサービスを提供する組織です。
シングル・ファミリーオフィスを設立するほどの資産規模ではない場合や、より効率的に専門サービスを利用したい場合に選択されます。
運営コストを複数の顧客で分担するため、比較的低コストで高度なサービスを受けられる点がメリットです。
また、多様な投資案件や専門家のネットワークを共有できる利点もあります。
日本では、株式会社ファミリーオフィス・デザイン(代表:米田氏)のような独立系の会社や、大手会計事務所のEYなどがこの種のサービスを提供しています。
ファミリーオフィスを設立するメリット
相応の資産規模が求められるファミリーオフィスの設立ですが、それを上回る多くのメリットが存在します。
その効果は、短期的な資産の増加に留まらず、一族の永続的な繁栄と理念の継承、そして世代を超えた結束力の強化にまで及びます。
ここでは、ファミリーオフィスを設立することで得られる主なメリットについて、4つの重要な側面から具体的に解説していきます。
長期的な視点で効率的な資産運用が可能になる
一般的な金融機関は、四半期ごとの業績評価や商品の販売手数料といった短期的なインセンティブに左右されることがあります。
一方、ファミリーオフィスは一族の代理人として、世代を超えた超長期的な視点に立ち、資産運用戦略を立案します。
利益相反の懸念を排除し、外部の金融機関や投資マネージャーを客観的に評価・選定できます。
これにより、仲介手数料などのコストを抑えつつ、一族の目標に沿った最適なポートフォリオを構築・維持し、効率的な資産の保全と成長を目指すことが可能となります。
一族全体の意思を統一した事業承継を実現できる
事業承継や相続の局面では、親族間での意見の対立や感情的なもつれが生じやすいものです。
ファミリーオフィスは、客観的かつ中立的な立場から一族のメンバー間の対話を促進し、全体の意思統一を図る「潤滑油」としての重要な役割を果たします。
会社の将来像や資産の分配について、特定の個人の利益ではなく、一族全体の繁栄という共通の目標に向かって議論を導くためのプラットフォームとなります。
これにより、争いを未然に防ぎ、円滑で計画的な事業承継や相続の実現を後押しします。
専門知識や人脈を次世代に継承しやすくなる
創業者が一代で築き上げた資産管理のノウハウや事業運営の知見、そして弁護士や大手会計事務所の専門家との人脈は、一族にとって極めて価値の高い無形資産です。
しかし、これらは属人的なものであるため、継承が難しいという課題があります。
ファミリーオフィスという組織を設立することで、これらの知識や人脈を形式知化し、体系的に次世代へ引き継ぐことが容易になります。
資格を持つ専門家との関係を組織として維持することで、創業者の引退後も質の高い専門的サポートを継続的に受けることが可能になります。
一族間のコミュニケーションが円滑になり結束が強まる
世代を重ねるごとに親族関係は複雑化し、コミュニケーションが希薄になる傾向があります。
これは、多くのオーナー企業が抱える共通の課題です。
ファミリーオフィスは、定期的なファミリー会議や一族の歴史を学ぶ勉強会、あるいは共通の社会貢献活動などを企画・運営することで、一族間のコミュニケーションを活性化させます。
共通の目標や価値観を再確認する場を提供することで、世代や居住地が離れていても一体感を醸成し、一族の結束力を高める。
これは、資産や事業を永続的に守り発展させていく上で不可欠な基盤となります。
ファミリーオフィス設立時の注意点とデメリット
ファミリーオフィスは一族に多くの利益をもたらす可能性がある一方で、その設立と運営には慎重な検討を要する注意点やデメリットも存在します。
多額のコスト負担に加え、内部のガバナンス体制が適切に機能しなければ、かえって資産を危険に晒すリスクもはらんでいます。
過去には、ずさんなリスク管理で破綻したアルケゴス・キャピタル・マネジメントの事例もあり、設立前に課題を正しく認識しておくことが重要です。
設立・維持に多額のコストが発生する
ファミリーオフィスの設立、特に専門家を自前で雇用するシングル・ファミリーオフィスを立ち上げる場合、多額の費用が発生します。
CEOやCIO(最高投資責任者)といった役員、弁護士、会計士などの専門スタッフの人件費、都心の一等地に構えるオフィス賃料、法務・税務アドバイザーへの報酬、高度な情報管理システムの導入・維持費など、年間の運営コストは数千万円から数億円に達することも珍しくありません。
このコストを上回るリターンを安定的に生み出せるだけの、十分な資産規模が設立の前提条件となります。
一族内のガバナンス体制の構築が不可欠
ファミリーオフィスは、銀行や証券会社のような厳しい公的規制の対象となりにくい側面があります。
そのため、組織内部での規律、すなわちガバナンス体制の構築が極めて重要になります。
資産運用の意思決定プロセス、役員の権限と責任の範囲、利益相反の防止策、コンプライアンス遵守の仕組みなどを明確に定め、一族内で合意形成を図る必要があります。
ガバナンスが脆弱な場合、特定の人物の独断によるハイリスクな投資や、資産の私的流用といった問題が生じる危険性があり、一族の資産を大きく損なうことになりかねません。
ファミリーオフィスを設立するための具体的な方法
ファミリーオフィスを実際に設立する場合、そのアプローチは大きく二つに分けられます。
一つは、自ら法人を設立し、専門家を雇用して完全に独立した組織を立ち上げる方法です。
もう一つは、既に存在する外部の専門機関が提供するファミリーオフィスサービスを利用する方法です。
どちらを選択するかは、一族が保有する資産の規模、求めるサービスの専門性や機密性、そして許容できるコストによって決まります。
法人形態としては株式会社などが一般的です。
自社で専門家を雇用し組織を立ち上げる
資産規模が特に大きい場合、自社で専門家を直接雇用し、シングル・ファミリーオフィスを設立する方法が選択肢となります。
このアプローチの最大のメリットは、一族の理念やニーズに完全に合致した、オーダーメイドの運営が可能な点です。
また、すべての情報を社内で管理するため、機密性を非常に高く保てます。
しかし、優秀な人材の確保と維持、そして組織全体のマネジメントは大きな挑戦となります。
会社設立の手続きはもちろん、多額の設立・運営コストがかかるため、極めて限られた超富裕層向けの方法といえます。
外部のファミリーオフィスサービスを利用する
より現実的で幅広い富裕層に開かれた選択肢が、外部の専門機関が提供するサービス(マルチ・ファミリーオフィス)を利用する方法です。
自前で組織を立ち上げるのに比べて、設立・運営コストを大幅に抑制できるのが最大のメリットです。
株式会社ファミリーオフィス・デザインのような専門企業は、既に多くの富裕層をサポートしてきた実績とノウハウ、そして専門家のネットワークを有しており、高品質なサービスを効率的に受けることができます。
ただし、提供されるサービスがある程度標準化されているため、完全に独自の運営を求める場合には不向きな可能性もあります。
まとめ
ファミリーオフィスとは、単に資産を管理・運用する組織ではなく、一族の資産、事業、そして価値観といった無形の財産までもを包括的に管理し、世代を超えて永続的に承継していくための仕組みです。
その本当の意味を理解し、資産管理会社やプライベートバンクとの違いを認識した上で、自らの一族の状況に最適な形態を選択することが重要です。
設立には多額のコストやガバナンス構築といった課題も伴うため、メリットとデメリットを慎重に比較検討し、専門家の助言も得ながら、一族の長期的な繁栄に向けた最適な道筋を見出すことが求められます。
当社のファミリーオフィスサービスについて
ハタスでは、不動産を中核としたマルチ・ファミリーオフィスタイプのファミリーオフィスサービスを提供しています。
一族や法人の資産保持・承継を支援するため、相続・保有に関する税務上の適正な対策や、適切な収益不動産の活用による長期的・安定的な資産形成をサポートします。
また、資産価値を有する不動産の売却・組み換えにより、資産全体の最適化を図ります。
家族会議の実施支援、不動産運用に関する教育、収益物件の管理・運営代行、資産状況に応じた購入・組み換え提案、そして税理士・弁護士等の士業と連携した手続支援などを通じ、中長期的な資産運用体制の構築を支援しています。サービスの内容に関する詳細なご相談をご希望の方は、お問い合わせフォームからお問い合わせください。※本サービスは一般的な不動産コンサルティングおよび管理運営支援を目的としており、特定の金融商品取引や投資運用業務を行うものではありません。
